1-1. 基本的な考え方
DCF法は、
「企業が将来生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)の現在価値の合計=企業価値」
という発想に基づきます。
さらに、企業価値(Enterprise Value)から純有利子負債を差し引くことで株主価値を求め、最後に発行済株式数で割って1株あたりの理論株価を出します。
大まかな流れは以下です。
- 予測期間(例:5~10年)の各期のFCFを予測する
- 予測期間以降を代表するターミナルバリュー(終価)を求める
- それらをWACCで割り引いて現在価値を求める
- 企業価値 → 株主価値 → 1株あたり株価へ変換
1-2. 代表的な数式
(1) 企業価値の式
予測期間を t=1,…,Tt=1,\dots,Tt=1,…,T、ターミナルバリューをTV、割引率をWACCとすると、
企業価値(EV)の式
EV = Σt=1T FCFt / (1 + WACC)t + TV / (1 + WACC)T
株主価値(Equity Value)の式
Equity Value = EV − Net Debt
理論株価(1株あたり)の式
P0 = Equity Value / Shares Outstanding
となります。
(2) ターミナルバリュー(永続成長モデル)
一般的な「ゴードン成長モデル」を用いたターミナルバリューは、
ターミナルバリュー(永続成長モデル)
TV = FCFT+1 / (WACC − g)
FCFT+1 = FCFT × (1 + g)
※ g:長期安定成長率(通常は名目GDP成長率以下)
ここで、
- FCFT+1=FCFT×(1+g)FCF_{T+1} = FCF_T \times (1+g)FCFT+1=FCFT×(1+g)(T+1期のFCFを、T期から一定成長率 g で伸びると仮定)
- ggg:長期安定成長率(通常は名目GDP成長率以下に抑える)
これをT期時点の価値として計算し、さらに現在時点まで割り引きます。
1-3. FCFの算出(FCFFの典型例)
DCFでは、よく「フリーキャッシュフロー・トゥ・ファーム(FCFF)」を使います。
営業利益(EBIT)ベースの代表的な式は、
フリーキャッシュフロー(FCFF)の代表的な定義
FCFt = EBITt × (1 − Tax Rate) + Dept − Capext − ΔNWCt
- EBITt:営業利益
- Tax Rate:実効税率
- Dept:減価償却費
- Capext:設備投資額
- ΔNWCt:運転資本の増加額
- EBITtEBIT_tEBITt:営業利益
- Tax RateTax\ RateTax Rate:実効税率
- DeptDep_tDept:減価償却費
- CapextCapex_tCapext:設備投資額(有形・無形の固定資産取得)
- ΔNWCt\Delta NWC_tΔNWCt:運転資本の増加額
- 運転資本 NWC=流動資産営業関連−流動負債営業関連NWC = 流動資産_{営業関連} – 流動負債_{営業関連}NWC=流動資産営業関連−流動負債営業関連
財務諸表との対応イメージは、
- 損益計算書:売上、売上総利益、営業利益、税金費用
- 貸借対照表:期首・期末の運転資本、固定資産残高
- キャッシュフロー計算書:営業CF、投資CF(設備投資など)
などから各要素を推計します。
1-4. 割引率 WACC の定義
WACC(加重平均資本コスト)は、
WACC(加重平均資本コスト)の定義
WACC = (E / (D + E)) × re + (D / (D + E)) × rd × (1 − Tax Rate)
- E:株主資本の時価(Equity)
- D:有利子負債の時価(Debt)
- re:株主資本コスト
- rd:負債コスト
CAPMによる株主資本コスト
re = rf + β × (rm − rf)
- rf:無リスク利子率
- rm:市場ポートフォリオの期待収益率
- β:銘柄のベータ
1-5. モデル構築の実務的ステップ
- 歴史データの整理
- 過去3~5年の売上高、営業利益、減価償却費、設備投資、運転資本などを集める
- 売上成長率や利益率の前提設定
- 売上成長率(初期数年は高く、その後は漸減)
- 営業利益率(競合・過去実績を参考)
- FCFの予測
- 将来の売上→営業利益→NOPAT→FCF という流れで計算
- WACCを推計
- 株主資本コスト(CAPM)、負債コスト、資本構成(D/E)を推定
- ターミナルバリューの設定
- 長期成長率 g をGDP成長率以下で設定
- 企業価値→株主価値→理論株価
- 純有利子負債(有利子負債-現金同等物)を控除
- 発行済株式数で割って1株価へ
1-6. メリット・デメリットと使いどころ
メリット
- 企業固有のキャッシュ創出力を直接モデル化できる
- M&A・プロジェクト評価などでも通用する「本筋」の手法
- 仮定を明示しやすく、シナリオ分析・感度分析に適する
デメリット
- 長期予測(FCF、WACC、g)への依存度が非常に高い
- ターミナルバリューの比重が大きくなりやすく、わずかな前提の違いで理論株価が大きく変わる
- スタートアップや赤字企業など、FCFが不安定な企業には適用が難しい
向いている銘柄
- インフラ・公益、消費安定株など、業績とキャッシュフローが比較的安定している企業
- 成熟段階に入った大企業
- 大型M&A、LBOなどの評価対象
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