AI時代におけるキオクシアの成長可能性と構造的リスクの再評価

AI時代におけるキオクシアの成長可能性と構造的リスクの再評価

キオクシア株に「投資冥利」はあるのか

AI需要の急拡大により、半導体の価値連鎖はこれまで以上に大きく変動しています。この中でキオクシアは、「NANDフラッシュ専業メーカー」という独自の立ち位置から、高い技術力と構造的な弱みの両方を抱えた銘柄として、市場の転換点に立たされています。

上場来株価は8倍以上となり、短期的には「期待先行」の色合いが濃い水準です。それでもなお、

  • AI時代における高速SSD/ストレージクラスメモリ(SCM)という新市場の立ち上がり
  • NVIDIAから名指しで「超高速SSD」の開発協力を求められているポジション
  • NAND発明企業としての技術基盤と、CBA・ナノインプリントといった先端プロセス

といった点を踏まえると、中長期の「投資冥利」を感じさせる要素は確かに存在します。

一方で、

  • DRAMを自社で持たない「NAND一本足打法」という構造的リスク
  • サムスン・SK hynix・マイクロンと比べた財務体質・投資余力の差
  • 3D NANDや貼り合わせ技術で台頭する中国 YMTC などの競争圧力

を無視することもできません。このため、キオクシアを中長期で保有するのであれば、高成長ポテンシャルを評価しつつも、ボラティリティと事業リスクを前提として受け入れる「腹の括り」が必要な銘柄と位置付けるのが妥当でしょう。

以下では、このような投資判断に至る背景・エビデンスを、やや腰を据えて整理していきます。


目次

1. 株価水準と「期待70〜80点」という評価

キオクシアホールディングスは2024年12月に上場し、初値1,440円から直近では12,040円と8倍以上に上昇しました。市場の期待感は、一種の「期待100」に近い水準まで高まっていると言ってよい状況です。

これに対して大山氏は、キオクシアへの期待を

  • 「50以下ではなく、70〜80点程度
    と位置付けています。

つまり、

  • 技術的・市場的なポテンシャルを高く評価しつつも
  • 構造的な不安・懸念から「満点ではない」

という、慎重なポジティブ評価です。
投資家目線で言えば、現状株価にはかなりの期待が織り込まれているものの、「100点ではない」分だけ、今後の実行次第で評価が一段と上振れする余地と、逆に失望による調整余地の両方が共存している局面とも言えます。


2. AIアーキテクチャの変化と、DRAMからNANDへの視線の移行

現在のAIブームの本質は、「膨大な計算を要する学習(トレーニング)」をGPUで回せるようになったことにあります。AIには

  • 学習(トレーニング)
  • 推論

という二つのフェーズがあり、とくに学習では膨大なパラメータとデータを、GPUとメモリ間で高速にやり取りすることが求められます。

このとき、GPUの性能を引き出すうえで最もAIに近い半導体は

  • HBM1 を含む高速DRAM
    である、というのが業界の共通認識でした。

一方で、キオクシアの主力はNANDフラッシュです。
NANDは

  • 大容量データの保存に適する一方で
  • 読み書き速度はDRAMより圧倒的に遅く
  • GPUから物理的にも階層的にも離れたストレージ側で使われる

ため、「AI特需の主役はDRAMであり、NANDは脇役」と見られてきました。

しかし、システム全体の処理能力が向上し、扱うデータ量が

  • テラバイト級 → ペタバイト級へ膨張している現在、

次のような課題が顕在化しています。

  • DRAM容量だけではデータを保持しきれない
  • DRAMとストレージ(NAND)間のアクセス速度がボトルネック化

この「データ規模の爆発」が、従来よりも高速なNANDフラッシュ、すなわち高速SSDへのニーズを新たに生み出しつつあり、これがキオクシアに対する期待の重要な技術的背景となっています。


3. NVIDIAの「超高速SSD」要請と、新市場形成の可能性

NVIDIAは、キオクシア主催の講演の場で次のようなメッセージを発しています。

  • AIで扱うデータサイズはテラバイト級からペタバイト級へ拡大
  • もはやDRAMだけではデータを収容しきれない
  • NANDを用いた超高速SSDが大量に必要になる

現状では、NVIDIAの要求する性能を満たすためには32台ものSSDを束ねる必要があり、コスト・消費電力の面で現実的ではないとされています。これに対しキオクシアは、

「同等の処理を2〜4台のSSDで実現できるレベルまで高速化する」

と表明しており、極めて野心的な性能目標を掲げています。

大山氏は、

  • これを3年前にNVIDIAが言っても、おそらく誰も真剣に取り合わなかっただろう
  • しかし実際にNVIDIAは「常識外れの価格と実績」で新市場を次々と切り開いてきた

という過去の実績を踏まえ、

  • そのNVIDIAが「将来これが必要だ」と言えば、もはや無視できない
  • 一部誇張があったとしても、「AIの伸長に伴いストレージ側にも抜本的な高速化が必要になる」という方向性自体は正しい

と評価しています。

こうした流れの中で、「GPUとDRAMの外側に位置し、DRAMとNANDの中間を埋める高速ストレージ階層」、すなわちストレージクラスメモリ(SCM)に近い領域が、本格的な市場として立ち上がる可能性が高まっています。

この「新しいメモリ階層」で、キオクシアの高速SSDが主役となれるかどうかは、同社の中長期成長シナリオにおける最大の焦点のひとつです。


4. 「NAND一本足打法」という構造的リスクとDRAM依存

他方で、キオクシアには明確な構造的リスクが存在します。大山氏が最大の弱点と指摘するのは、いわゆる**「NAND一本足打法」**です。

サムスン、SK hynix、マイクロンの3社は、

  • 高速DRAM(HBMなど)
  • NANDフラッシュ

の両方を手掛けており、**HBMとSSD用DRAMを自社内で完結できる「総合メモリメーカー」**です。

これに対しキオクシアは、NAND専業に近い体制であり、

  • SSDの中核となるNANDは自社で供給できるが
  • SSDに必要なDRAMは、
    • サムスン
    • SK hynix
    • マイクロン

といった「直接の競合」から調達せざるを得ません。

とくにNVIDIAが求めるような超高速SSDは、

  • 一部でDRAM用途を代替し
  • 結果としてDRAM需要を食いかねない性質を持つ

ため、**「競合が自社のDRAMをどこまで積極的に提供してくれるのか」**という現実的な懸念が生じます。

その結果として生じるリスクが、

「DRAMが手に入らないがためにSSDが作れない」

という、サプライチェーン上の致命的なボトルネックです。

もちろん、大口顧客であるマイクロソフト、Google、Amazonなどが

  • 「キオクシアの代わりにDRAMを調達するから、その分SSD価格を抑えろ」
    といった交渉を行うシナリオも考えられますが、それは同時に、余計な交渉コスト・調整負担が継続的に発生する構造的弱みでもあります。

5. NANDの起源企業としての技術力と、シェア低迷の背景

技術面だけを見ると、キオクシア(旧・東芝)は今も世界トップクラスのポジションにあります。

  • NANDフラッシュそのものを発明したのは東芝
  • メモリセルを縦方向に積層する「3D NAND(多層積層)」も世界初で実現

というように、業界の原点となる発明の多くが東芝・キオクシアに端を発しているからです。

近年ではとくに、

  • メモリ層
  • ロジック層

を別々のウェーハで作製し、貼り合わせ(ウェーハボンディング)によって高性能・高密度を実現する「CBA(CMOS Bonded Array)」技術が注目されています。平坦度や接合精度など、実装には極めて高いプロセス技術が要求されますが、キオクシアはこれを実チップで具現化しています。

もっとも、この「貼り合わせ構造」は、実は中国 YMTC2 がキオクシアより先に実用化していたという側面もあります。YMTCは、

  • 128層以上の3D NAND製造装置に対する輸出規制がある環境下で
  • 中国国内の装置メーカー(Naura など)の成膜・エッチング装置を活用し
  • 267層クラスの3D NANDを量産可能とされる

など、米国の規制を受けながらも技術力を急速に高めています。NAND市場シェアは約6%とまだ小さいものの、**技術面では「侮れない存在」**であり、キオクシアにとっても中長期の競争リスク要因です。

一方で、キオクシア自身のシェアは
1位:サムスン(圧倒的)
2位:SKグループ(SK hynix+Solidigm)
3位:マイクロン
4位:キオクシア

という位置付けにとどまっています。

本来、NANDを発明した企業としてトップシェアを獲得していても不思議ではない立場でありながら、

  • 市場形成の初期段階でサムスンに技術ライセンスを与えたこと
  • メモリ市況の変動が激しいなかで、東芝の財務体質が弱く、不況期にも大型投資を継続するだけの体力に乏しかったこと

が響き、

  • サムスンは豊富な資金力によって投資を継続しトップシェアへ
  • 東芝・キオクシアは技術力があっても投資余力で劣り、シェアを奪われる

という構図が続いてきました。
**「技術はあるが資本力で劣る」**というアンバランスさは、今も同社が抱える根源的な課題の一つです。


6. ストレージクラスメモリと「インテル Optane」の教訓

キオクシアが挑戦している「超高速SSD」は、概念的には**ストレージクラスメモリ(SCM)**に属します。SCMとは、

  • 高速だが容量が限られる DRAM
  • 大容量だが遅い NAND

の中間に位置する新しいメモリ階層です。

このコンセプト自体は以前から存在しており、インテルの「Optaneメモリ」が代表例でした。しかし従来のPC・サーバー市場では、SCMはしばしば

  • DRAMほど速くない
  • NANDほど安くも大容量でもない

という「中途半端なポジション」に陥りがちでした。結果として、Optane は技術的には高評価であったものの、明確なニーズをつかめず商業的には失敗に終わっています。

大山氏は、過去との違いとして、

  • 当時は「誰がどれだけ作れば採算が合うのか」というソロバンが弾けず、市場形成に至らなかった
  • しかし現在は、GPUを軸にした新たなコンピュータアーキテクチャが広がり、DRAMとNANDの中間に現実的なニーズが生まれつつある

と指摘します。

とりわけ、NVIDIAやクラウド大手が実際に高速SSD/SCMを欲しがっている現状は、Optane 失敗時とは本質的に異なっており、キオクシアの挑戦には追い風が吹いていると言えます。一方で、

  • DRAM依存
  • コスト構造
  • エコシステム形成

といった「ビジネスとして成立させるための課題」はなお多く、ここを乗り越えられるかが、投資家にとっての成否ラインとなります。


7. DRAM再参入の可能性と、日本半導体産業への波及

キオクシアは、東芝時代の2002年にDRAM事業から撤退しました。しかし近年、

  • 酸化物半導体を用いた新型DRAM(OctaRAM)

に関する研究成果を公表するなど、DRAM技術への再チャレンジを進めています。

大山氏は、

  • 現実問題として、キオクシアに十分な「人・モノ・カネ」があるかどうかには疑問が残る
  • それでも「日本の半導体産業全体」を見れば、日本メーカーがDRAM生産を担っている状態は望ましい
  • NANDフラッシュを手掛けるキオクシアがDRAMもやる、という選択肢は十分あり得る

と評価しています。

火が消えた事業を再点火するのは容易ではありませんが、

  • ラピダスのように「まったく経験のない最先端ロジックにゼロから挑む」よりは
  • かつて経験者が多くいたDRAM事業の方が、ある意味で現実的

という見方も可能です。

もしDRAM再参入が成功すれば、

  • キオクシア自身の「NAND一本足打法」という構造リスクを緩和し
  • 日本全体のメモリ産業基盤の強化にもつながる

という意味で、個別銘柄を超えたマクロな「投資テーマ」に発展し得る要素を含んでいます。


8. ナノインプリントと「仲間集め」の重要性

キオクシアを語るうえで見逃せないもう一つの技術が、ナノインプリントリソグラフィです。これは、従来の露光装置による縮小投影ではなく、

  • スタンプ(ハンコ)のようなマスクを直接ウェーハに押し当ててパターンを転写する

という方式であり、実現すれば大幅なコスト削減が期待されるゲームチェンジャー候補です。

ナノインプリントも東芝発の技術であり、プロセス実現にはキヤノンの装置開発協力を得てきました。現在、キオクシアは

  • ナノインプリントをNAND量産に適用した場合のコストパフォーマンス改善効果

に注目していますが、同時に

  • スループット(処理枚数)
  • 接触によるコンタミネーション(汚染)

など、量産技術として乗り越えるべき課題も多いのが現実です。

大山氏は、これが真に「メジャーな製造技術」となれるかは、

  • 技術的優位性そのものに加え
  • TSMC、サムスン、SK hynix など、どれだけ多くの企業を「同じ陣営」に巻き込めるか

にかかっていると指摘します。

かつてのVHS対ベータ戦争のように、必ずしも技術的に優れた規格が勝つわけではなく、多数派を形成した側が勝つという歴史的教訓を踏まえると、ナノインプリントの将来も、技術だけでなく「仲間集め」の巧拙に左右されることになります。現状ではSK hynixが一定の関心を示している程度で、まだ**「仲間が足りず、メジャー化には距離がある」**と見られています。


9. 総括――どのような投資スタンスが妥当か

以上を踏まえると、キオクシアを巡る投資判断は、次のように整理できます。

プラス要因(投資冥利の源泉)

  • NAND・3D NANDの発明企業としての強力な技術基盤
  • CBAやナノインプリントなど、将来のコスト競争力を左右し得る先端プロセス技術
  • AI時代に本格化する高速SSD/SCMへのニーズ
  • NVIDIAが名指しで「超高速SSD」開発を要請するポジション
  • DRAM再参入(OctaRAMなど)が成功した場合の構造リスク緩和と、日本半導体基盤強化への波及

マイナス要因(リスク・懸念)

  • DRAMを自社で持たない「NAND一本足打法」によるサプライチェーンリスク
  • サムスン・SK・マイクロンに比べた財務体質・投資余力の差
  • YMTCなど中国勢による3D NAND・貼り合わせ技術の追い上げ
  • SCMビジネスとして成立させるためのコスト・エコシステム構築の難易度
  • ナノインプリント普及に必要な「仲間集め」がまだ不足している現状

こうした状況を総合し、大山氏はキオクシアへの評価を

「期待100のうち70〜80点」

と位置付けています。

これは、

  • 「技術力とポジションは非常に魅力的だが、構造的に不利な立場ゆえに課題も多い」
    という、バランスの取れた慎重なポジティブ評価と言えます。

中長期投資家の視点からは、

  • AIストレージ階層の再編という大きな潮流に賭けるグロース銘柄であり
  • その一方で、DRAM依存や競争環境の厳しさを織り込んだ上でポジションサイズや時間軸を慎重に設計する必要がある銘柄

と整理できます。

言い換えると、キオクシア株は、

  • 「高リスクだが、高い技術ポテンシャルとAI時代の追い風を背景にした、投資冥利のあるテーマ株
    として位置付けるのが現時点では最も自然ではないかと思われます。
  1. HBM とは High Bandwidth Memory(高帯域幅メモリ) の略で、主に AI・GPU・HPC(スーパーコンピュータ)向け に使われる次世代メモリ規格です。近年、生成AIの爆発的普及により最も重要な半導体技術の一つとなっています。
    ● 特徴
    3D積層メモリ(DRAMを縦に8〜16段など積み重ねる)
    TSV(Through-Silicon Via) と呼ばれる縦穴で層間を高速接続
    GPUとメモリをインターポーザ上で並べて実装(2.5D)
    同容量のGDDRより 帯域が数倍〜10倍
    電力効率が高い(AIでは特に重要)

    ■ なぜAIに必須なのか?
    AI(特にLLM)では 計算量より「メモリ帯域(メモリの速さ)」がボトルネック になりやすいためです。
    GPUがどれだけ強くても、
    メモリが遅いとデータが追いつかない
    HBMはこの「メモリの渋滞」を根本から解消する
    そのため新世代GPU(NVIDIA H100/H200、AMD MI300 など)は ほぼすべてHBM内蔵 になっています。
    ■ 誰が作っているか?
    SK hynix(世界シェア1位)
    Samsung
    Micron
    (日本勢はHBMの前工程・材料で存在感が大きい:TSV装置、CMP、Siインターポーザ、材料企業など)

    ■ ごく簡潔にまとめると
    HBM=超高速で省電力な3D積層DRAM。AI GPUに必須のメモリ。 ↩︎
  2. YMTC は “Yangtze Memory Technologies Co., Ltd.” の略です。
    日本語では 長江存儲科技(長江メモリー) と呼ばれています。 ↩︎
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