2025年10月21日|経済の見方と今後のマーケット展望

2025年10月21日|経済の見方と今後のマーケット展望.

目次

全体像:市場心理の改善と政策期待、AI関連投資の持続性が焦点

日本では自民党と日本維新の会が「閣外協力型」の連立に合意し、積極財政を掲げる高市総裁の首相指名が見込まれるとの観測から、政治の不透明感が後退。株式市場の上昇と円安圧力が意識されています。一方で、連立の枠組みは「閣僚不派遣」でコミットメントが限定的との指摘もあり、実行力と財源の裏付けが問われます。

米国では、政府機関の一部閉鎖(シャットダウン)を巡る解消期待、米中交渉の進展観測、そしてAI関連を中心とした設備投資ストーリーが市場を牽引。iPhone新機種の好調やクラウド/半導体関連の期待が続く一方、AI投資の“循環資金・相互出資”構図が信用リスクの連鎖を招く可能性への警戒感も示されました。


今後のマーケット展望:3つのドライバーと2つのリスク

1) 日本:政策期待と金利・為替の力学

  • 政策ドライバー:連立下でも維新は閣外協力のため、拙速な大型歳出には歯止めがかかる可能性。ガソリン税の暫定税率廃止、社会保険料引き下げ、いわゆる「大阪・関西の都市制度改革」関連(福祉と構想)が先行しやすいとの見方。消費減税は「継続協議」で当面ハードルが高い見通し。
  • 金利と為替:日銀では高田審議委員が「利上げに向けて機は熟した」と講演。近月の会合で利上げ提案が増える可能性が指摘され、12月利上げ観測も浮上。もっとも、首相交代直後の今月末決定会合は見送りとの見方が優勢。短期的には金利差縮小が進みにくく、株高を媒介に円安圧力が残る可能性。
  • フロー要因:海外勢の日本株投資で、為替ヘッジ比率維持のための“時間差の円売り”が円安の尾を引くとの解説。株高→円安→業績期待→さらに株高というスパイラルへの注意。

2) 米国:AI投資と消費の強さの見極め

  • AI設備投資:半導体・ネットワーク・データセンターなどインフラ企業のガイダンスが最重要。ハイパースケーラーの巨額投資はキャッシュフロー負担も大きく、設備投資計画の明確性次第で個別株の明暗が分かれる局面。
  • 消費の耐久力:一部で雇用減速が指摘されるなかでも、小売関連の統計は底堅いとの解釈。株高による資産効果、今後の利下げ観測が下支え要因に。今週発表される大手消費関連(コカ・コーラ、GM、ネットフリックス等)の決算で需要の質を検証。

3) コモディティ:金の上昇持続性

  • 上昇の背景:ETF需要増、各国中銀(特に中国)の買い増し、地政学リスク、そして米長期金利の低下観測などが重なり、上昇トレンドを強化。
  • 波及:国内では非鉄・金属大手の株価支援材料。金だけでなく、データセンター関連で銅需要の構造的増加も視野に。

主なリスク

  • AIマネーフローの連鎖:顧客—サプライヤー—投資家の相互出資・前受け取引が過熱した場合、一部の信用ショックが波及しやすい構造に。
  • 政策の実行力:日本の連立は閣外協力であるため、看板政策(消費減税や議員定数削減など)に到達するまでの政治的コストが高い。期待先行の反動に注意。

特集:サイバー攻撃と事業継続—物流・医療現場の脆弱性

  • 大手飲料・物流の混乱:朝日グループのサイバー攻撃で物流システムが長期停止。飲食店現場では代替銘柄への切り替えやメニュー変更を余儀なくされ、川下の需要現場まで影響が及ぶことが露呈。通販大手アスクルにも障害が波及し、委託先を抱える小売のEC機能にも影響。
  • 医療機関の深刻な教訓:徳島県の総合病院ではランサムウェアにより電子カルテが長期停止、手書き対応・救急制限へ。脆弱な認証設定など基本対策の欠落が被害拡大の要因に。
  • 示唆:BCP(事業継続計画)の中核に「サイバー復旧力(バックアップ/代替手順/演習)」を据える必要。特に医療・食品・物流など社会インフラ領域は、①オフライン・バックアップ、②最小限業務の“紙・手作業”運用手順、③外部ベンダー横断演習の常態化が急務。

経済指標・政策のポイント

  • 日本:日銀は物価安定目標の達成度合いと賃金動向を重視。とりわけ「一般労働者の所定内給与(毎月勤労統計)」の前年比2.5〜3%が持続可能かに注目。来年の春季賃上げ(ベア)を3%台後半で維持できるかが、利上げ継続の条件として重要視される見立て。
  • 米国:政府閉鎖が今週中に解消する観測。一般に閉鎖は実施週数×0.1〜0.2%程度、四半期GDPを一時的に押し下げる試算があるため、早期収束なら成長インパクトは限定的。
  • 中国:7–9月期の実質GDPは政府目標(5%前後)に届かず。不動産投資の落ち込みが継続。政策支援と外需のてこ入れのバランスが課題。
  • 資源・地政学:米豪がレアアース供給網強化で合意。EUはロシア産ガスの輸入停止計画を承認。資源・エネルギー調達の再編が中期的に進む見通し。

企業決算・企業動向の整理

  • グローバルIT/クラウド:AWSの大規模障害は復旧したが、クラウド依存リスクが改めて顕在化。ミッションクリティカル領域ではマルチクラウド化・フェイルオーバー設計の再点検が投資テーマに。
  • 半導体・AI:TSMCが通期売上見通しを上方修正。AIインフラ向けの強い需要が継続。NVIDIAやAMDなど設計・供給側と、顧客である生成AI事業者の資本関係強化が進むが、過度な相互依存は市場の不安定要因にも。
  • 素材・資源:米クリーブランド・クリフスはレアアース脈の存在可能性を開示し、国内採掘の検討を表明。サプライチェーン再構築のうねりが北米でも進展。
  • 日本の流通・小売×EV:イオンがBYD車の販売支援で連携へ。全国商業施設に販売拠点を設置し、補助金活用で価格訴求。商業施設の充電網を来店促進と結びつける“店舗×モビリティ”モデルが加速。
  • 今週の注目決算:コカ・コーラ、GM、ネットフリックスなど消費・レジャー・広告の需給感を占う企業が続く。ASP動向、会員純増、在庫・値引き政策、広告市況のコメントに注目。

賃金・物価・金融政策:来年の賃上げ「3%台後半」維持が鍵

専門家の解説では、来年のベースアップが「3.4〜3.9%」レンジに収まる可能性を示唆。

  • 押し下げ要因:企業収益鈍化。もっとも、賃金全体への寄与は限定的との試算。
  • 押し上げ要因:総合CPIの推移(5四半期ラグ)と人手不足(雇用人員判断DI)。物価連動業種・労働需給に敏感な業種での上振れが、収益悪化による下押しを相殺する見立て。
  • 含意:ベア3%台後半が維持されれば、日銀は来年半ば以降も段階的な正常化を“選択可能”に。タイミングは実体経済・市場環境次第だが、12月に一手、その後は半年程度のインターバルを見込む見方。

セクター別の視点と投資メモ(助言ではなく論点整理)

  • AIインフラ:半導体・光学部品・データセンター電力設備・冷却など裾野が広い。ガイダンスの強弱と顧客集中リスク(ハイパースケーラー偏重)を併読。
  • 貴金属・非鉄:金の高止まりに加え、銅などデータセンター需要の構造増が追い風。原料調達・為替の影響を織り込み。
  • 国内ディフェンシブ:サイバーセキュリティ、BCP関連(バックアップ、EDR、ゼロトラスト、物流の冗長化)。
  • 自動車・EV流通:ディーラー網の再編や商業施設×モビリティの新業態に注目。価格補助の持続性が鍵。

まとめ:期待先行の“お祭り”後をどう越えるか

  • 短期:日本は政権発足イベントとヘッジフローが円安・株高を押し上げやすい地合い。米国はAI投資と消費の底堅さが支え。
  • 中期:日本は閣外協力の下で政策実行力と財源の整合性が試される。日銀は賃金・物価の持続性を見極めつつ、年内の一手と来年半ば以降の“次”を模索。
  • 構造:サイバーリスクとサプライチェーン再設計(資源・エネルギー・レアアース)が企業行動を塗り替える。AIマネーフローの連鎖リスク管理が新常識に。

以上を踏まえると、「期待主導の相場」に政策実行・賃金持続・BCP強化という実体の裏付けが加わるかが最大の争点です。今週は米大型決算と国内の政権発足プロセス、日銀関係者の発言が市場の温度感を左右しそうです。

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