2025年10月8日|経済の見方と今後のマーケット展望

2025年10月8日|経済の見方と今後のマーケット展望
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きょうの全体観:円安と政治不確実性がグローバル資産配分を揺さぶる

米株は最高値圏から一服し、利益確定の売りが広がりました。主導したのはAI関連の主力銘柄で、セールスフォースやマイクロソフトなどに割高感が意識されたことが背景です。オラクルはクラウド部門の利益率が予想を下回るとの報で一時大幅安となり、センチメントの変化を象徴しました。金先物は大台の4,000ドルを初突破し、年初来の上昇率は50%超。安全資産選好と通貨不信の受け皿としての金買いが再確認された格好です。

為替では円安が加速し、一時1ドル=152円台と約7か月半ぶりの水準。新政権下での積極財政観測や、日銀利上げの後ずれ観測が円売り圧力となっています。いわゆる「高市トレード」が合言葉となる中、当面は米金利動向だけでなく国内・欧州の政局が相場の変動要因です。

専門家の解説:ドル高・円安の持続条件

SMBC日興の為替見通しでは、米国に重要統計が乏しい一方で日欧の政局不安がドル円の上振れ余地につながるとの見立て。9月FOMC議事要旨の公開で「25bp利下げ」の判断経緯と、インフレ・雇用の評価が注目点です。市場が織り込む日銀の10月追加利上げ確率は総裁選後に約56.5%から2割程度まで低下し、利上げ後ずれ観測が円安を後押ししたとの分析が示されました。短期的には154円80銭近辺が節目との指摘も出ています。

欧州ではフランスの首相辞任報道を受け、フランス国債利回り上昇とユーロ安が進行。マクロン大統領の与野党調整が難航するリスクが意識され、為替・債券のボラティリティ要因になっています。クロス円は全面高ながら、基軸通貨では安全資産としてのドルに資金が集まりやすい地合いです。

米マクロ:期待インフレのじわり上昇と家計信用の減速

ニューヨーク連銀の消費者調査では1年先の期待インフレ中央値が3.38%へと3か月連続で上昇。学歴が高校卒以下、世帯年収5万ドル未満でインフレ懸念が強い傾向が示されました。金利低下観測を抑制しうるソフトデータで、株式には重し。

一方、8月の米消費者信用残高は前月比+0.1%にとどまり、特にリボ払い(クレジットカード)の伸びが前月の+10.3%から▲5.5%に急減速。高金利下での家計の慎重化がうかがえます。もっとも、カード延滞率は高所得者の多いアメックスなどで目立った悪化が見られず、個人消費の基調はなお底堅いとの見方も併存しています。

コモディティ:金の史上高で分散投資の再評価

金先物の4,000ドル突破は、実物資産による購買力防衛ニーズの強さと、通貨・政策不確実性の高まりを映します。ドル高局面でも金が買われるのは、インフレ期待の粘着性と地政・政治要因が複合しているためです。足元では原油も上昇基調で、企業の仕入れコスト圧力(ISM価格指数の上昇)と合わせて、価格転嫁余地の乏しいセクターには収益面の波及が想定されます。

企業・産業トピック

テスラ:4万ドル以下の廉価版を投入も、市場の視線は「価格弾力性」

テスラはモデルY/モデル3の廉価版を発表。価格は4万ドル(約600万円)以下に設定し、補助金縮小下の需要喚起を狙います。ただ、投資家の初期反応は厳しく、「想定より高い」との声から株価は4%安。価格弾力性が限定的なら、数量拡大とマージン維持の両立は容易ではありません。

食品:関税コストと値上げ疲れ

ペプシコは9日に7-9月期決算を予定。値上げ長期化でスナック部門の需要鈍化が響き、3四半期連続の減益見通しです。アクティビストのエリオット参入で経営改善要請への市場期待が焦点。調味料のマコーミックは関税コスト見通しを引き下げた一方、原料だけでなくパッケージ用アルミへの50%関税が重荷。各社は在庫の目減りとともに、販売量を落とさない範囲での「細かい値上げ」を余儀なくされそうです。

Apple:衛星通信(D2C)でエコシステム強化

Appleは2022年のiPhone 14から衛星経由の緊急SOSを提供。衛星通信企業グローバルスターに累計約20億ドルを出資し、通信容量の85%をiPhone向けに確保する提携を結んでいます。将来的にサブスク化することで収益源の多角化を図りつつ、遠隔地ユーザーの囲い込みで端末・サービスの継続利用を促す戦略です。

新興取引:ICEが予測市場に大型出資

インターコンチネンタル取引所(ICE)は暗号資産を用いる予測市場「Polymarket」に20億ドルを出資。同社は同市場の企業価値を約80億ドルと評価し、金融取引の主流化に向けた一歩と位置づけています。伝統取引所による新領域の取り込みは、デリバティブやヘッジ手段の裾野拡大につながる可能性があります。

日本の景況感と賃金:指標カレンダーの焦点

内閣府の8月景気動向指数(一致)は前月比▲0.7ptで2か月連続悪化。輸出の弱さとパソコン・自動車部品の生産減が背景です。本日公表の毎月勤労統計(8月)は、名目賃金が+2.4%へ伸び率鈍化の見込み。実質賃金は▲0.7%とマイナス幅拡大が想定され、家計の購買力回復にはなお時間が必要との評価です。

企業業績の耐性:価格転嫁制約下でも上方修正の芽

米国では原材料コストが上がる一方、中小企業の「この先値上げ」意向は鈍く、顧客離れ懸念から転嫁しにくい状況が続きます。にもかかわらず、アナリストの業績予想修正を示すリビジョン・インデックスはプラス圏で、企業の生産性改善やコスト管理、株主還元強化が株価の下支えとなる可能性があります。

投資行動への示唆

  • 為替・金利:日銀の「慎重姿勢」観測と欧州政治リスクは、円売り・ドル買いの土台。FOMC議事要旨で「リスクバランス」の記述が再確認されれば、金利見通しの柔軟性が意識されやすく、為替のトレンド継続に注意。
  • 株式:米ハイテクのバリュエーション調整は一服ではあるが、決算シーズン入りで「ガイダンスの質」に市場の目線が低下する余地。価格転嫁が難しいセクターはコスト上昇耐性(効率化・ミックス改善・還元策)を選別材料に。
  • コモディティ:金は政策・政治不確実性のヘッジとして機能。ポートフォリオの分散先としての役割が再評価。
  • テーマ:衛星通信(D2C)や予測市場など、インフラ×データのプラットフォーム化は中長期の構造テーマ。関連銘柄のエコシステム戦略を確認。

主要ポイント(要約)

  • 米株は高値圏から反落。AI主力に利益確定、オラクル報道が象徴的。
  • 円は152円台まで下落。「積極財政」「日銀利上げ後ずれ」観測が背景。
  • NY連銀の期待インフレは3.38%へ上昇。家計信用はリボ払いが急減速。
  • 金先物が4,000ドル台に乗せ、安全資産需要を再確認。
  • テスラは4万ドル以下の廉価版投入も、価格に対する需要の弾力性が焦点。
  • ペプシコ決算は需要鈍化と関税コストが逆風。アクティビスト対応が注目。
  • Appleは衛星通信をエコシステムの武器に育成、将来のサブスク収益化も示唆。
  • 日本の一致CIは2か月連続悪化。8月賃金の実質マイナス継続見込みで家計の回復遅れ。

※本稿は2025年10月8日時点の各発言・数値に基づいて整理しています。

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