1. 現在の経済の見方と今後のマーケット展望
米国では、FRBの利下げ再開を材料にリスク選好が強まり、ハイテク中心に株式の上昇基調が続いています。一方で、利下げの回数やペースを巡っては、FOMC参加者や地域連銀総裁の見解が割れており、「年内さらに何回進むのか」という不確実性は残っています。ハト派と目されるミラン理事が関税起因のインフレ圧力を相対化し、より積極的な利下げを主張する一方、カシュカリ総裁は雇用の急悪化を最大のリスクと捉え、段階的な利下げ継続を見込むと整理。結論として、景気後退の蓋然性が定まらない局面での「緩和バイアス」は市場の上値を支えるが、データ次第で振れやすいという評価が共有されました。
為替は、海外中銀の利下げにもかかわらず円安基調が続いている点が論点です。背景として、(1)日本の実質金利の低さ(中立金利を下回る政策金利とプラスのインフレにより実質マイナスが続く)、(2)貿易赤字の定着・拡大リスク(対米輸入拡大や資源価格次第で赤字が膨らむ可能性)、が挙げられました。短期的には米利下げ観測の揺れでドル円の方向感が定まりにくいとの見立てですが、労働指標が弱くなり利下げ期待が再拡大する局面が円高方向の主なリスク要因とされ、次の転機は10月初旬の米雇用統計という位置づけです。
国内では、日銀が保有ETF・J-REITの市場売却に踏み切る方針を決定。高値圏での需給配慮に加え、当座預金付利の増加に備えた収益確保(いわゆる“益出し”)の意図が読み取れるとの解説がありました。市場機能の正常化を進めつつ、財政・インフレリスクを価格に織り込む国債市場への回帰が期待される一方、売却のペースや枠組み次第で心理的ショックを抑える運用が求められます。
株式については、海外ハイテク高と国内の政策期待が下支え。もっとも、日銀の売却方針や高値警戒が上値を抑える可能性が指摘されました。ファンダメンタルズ面では**「累進配当」(一時的な業績悪化でも減配せず、成長に応じて配当維持・増配を目指す方針)を明示する企業群の相対優位が直近検証され、高配当×累進配当の組み合わせがトータルリターン面で優位だったとの分析が紹介されています。方針の事前開示**自体が投資家の長期保有を促し、期待の安定化を通じて株価の下押し圧力を和らげる――というメカニズムが示唆されました。
2. 特集の要点:プラザ合意40年—いま何を学ぶか
1985年のプラザ合意は、G5が協調介入で「過度のドル高是正」に動いた歴史的転換点でした。合意は多通貨・多市場での協調介入を鍵とし、結果として急速な円高を招き、日本では金融緩和の長期化→資産価格の過熱→バブルの形成と崩壊という副作用をもたらしました。当時の当事者インタビューからは、「必要な調整」だったが緩和は行き過ぎ、結果のコストが大きかったという反省が強調されています。
現在との相違点は三つ。(1)貿易構造の変化:米国の赤字相手は多極化し、中国のウエイトが圧倒的に大きい。(2)市場規模の拡大:為替市場が巨大化し、各国の外貨準備「実弾」だけでは持続的な水準コントロールが困難。(3)政策手段のシフト:為替ではなく関税(産業・雇用重視の選択)が前面に出やすく、二国間交渉の圧力装置として機能する局面が増えた、という点です。これを受け、「プラザ合意2.0」の実現性は低いとの見方で一致しました。
基軸通貨ドルの地位を巡っては、決済の多極化は進みうるものの、単独でドルを代替する通貨(輸出競争力や政策目標との整合が必要)を各ブロックが積極的に望みにくいという構造的制約も指摘。長期的には、人民元やユーロ圏の資本市場統合の進展がドルに挑戦する余地を広げる一方、当面はドル中心+周辺の多様化が現実解という評価です。日本に関しては、為替を金融政策の補助的変数ではなく「制約条件」として明示的に組み込む政策運営が必要との提言が示されました。
3. 発表済み・今週の経済指標と市場の受け止め
- 米FOMC後のメッセージ:0.25%利下げ後もデータ依存。ミラン理事は関税インフレのマクロ影響を抑制的に評価し、より深い利下げを主張。一方で、雇用悪化を警戒する見解も強く、物価は**「3%近辺での推移」というベースラインが提示されました。市場の受け止めは、「景気の底割れは回避しつつ、早期の過度緩和には慎重」**というミックス。
- 今週の注目:米PMI、新築住宅販売、日銀7月会合の「主な意見」、そして週末の米PCE。特にPCEはFRBが最重視するインフレ指標で、コアの粘着度とサービス価格の鈍化度合いが利下げペースの分水嶺になります。日銀の「主な意見」では、利上げを主張した委員の論点に他の委員がどれだけ接近しているかが焦点。ここがタカ派化の手がかりとなり、円金利・為替のボラティリティに波及し得ます。
4. 企業動向・決算トピックの整理
決算シーズン本格化前ですが、需要の強い製品投入と大型クラウド案件の報道がグロース株の物色を後押ししました。ハードでは新型スマートフォンの販売初動が好感され、ソフト/クラウドでは大口契約観測がセンチメントを改善。国内では、配当方針の質の差(累進配当の有無、方針の事前開示)がパフォーマンス差に直結したという検証が示され、**「総還元の量」だけでなく「方針の透明性」**が評価の軸になりつつあります。
5. 投資家の実務ポイント(まとめ)
- ドル/円:短期は米雇用・PCE次第のレンジ戦。中期は実質金利と外部収支が円の上値を抑えやすい構造。突発要因は対中通商・関税交渉のヘッドライン。
- 日本株:高配当×累進配当×方針開示のスクリーニング有効。日銀のETF売却はペース管理次第で需給影響は限定的だが、心理面には注意。
- グローバル:為替協調よりも関税・産業政策が政策主軸。サプライチェーン再編や決済通貨の多様化が中長期のテーマ。
