2025年9月17日|経済の見方と今後のマーケット展望

2025年9月17日|経済の見方と今後のマーケット展望
目次

1. 経済の現状と先行き:米国は「成長は堅調、雇用は減速」のねじれ

米国では成長モメンタムが想定以上に強く、設備投資が景気を押し上げています。背景にはAI関連を中心とする情報処理機器、ソフトウェア、研究開発などのハイテク投資の拡大があり、従来の「不確実性が投資を抑制する」という通念に反して、通商政策の不確実性や国内回帰の圧力がむしろ自動化・AI投資を後押ししているとの見方が紹介されました。サンフランシスコ連銀の分析を引き、企業の効率化志向が強まっていることが投資加速の一因とされています。

一方で雇用は明確に減速。ジャクソンホールでの「雇用の下振れリスク」への言及に続き、景気に敏感な分野を除いた雇用伸びは鈍化し、若年層の失業率上昇も指摘されています。AI・自動化は長期的な生産性押し上げ効果をもたらす半面、短期的には雇用喪失の圧力となり、成長と雇用の「ねじれ」を生んでいます。FRBはこうしたリスク管理の観点から保険的な利下げに踏み切る公算が高いとの解説がありました。

2. マーケット展望:イベント前の高値圏で、上値余地とテールリスクを意識

日本株は最高値圏。時価総額上位の限られた銘柄が指数を強く牽引しており、上値メドとして約4万9,300円近辺の試算が提示されました。一方、今期の減益見通しや来期増益の先取り、地政学・AIデータセンター投資の過熱などを踏まえ、短期の上値余地は限定的、テールリスク1にも留意が必要との見立てです。

雇用モメンタムと株価の乖離(求人減速と株高)も警戒材料に挙げられました。AI期待が株価を押し上げる一方、関税や政策不確実性が雇用を抑制している可能性があるとの指摘です。

為替は「ドルと円の名目実効レートが同方向に緩やかに低下」しており、力関係が拮抗することでドル円は狭いレンジに硬着しやすいとの見通し。イベント(FOMC)でドットが大きく下方修正されない限り、短期的にはドル買いの反応もあり得るとの解説でした。

3. 特集①:AI時代の電力制約と「小型モジュール炉(SMR)」という解

AI普及で電力需要が急増するなか、米英原子力協定の迅速化報道を背景に、SMR(小型モジュール炉)への注目が高まっています。SMRは出力規模を抑え工場製作・現地組立で建設期間を短縮でき、データセンター隣接設置で送電コストの低減も期待できるとされます。地下設置などで安全性・レジリエンスにも利点があるとの解説でした。

実用化には初期投資と規制承認、放射性廃棄物管理などの課題が残るものの、AI時代の局所的・大容量電源としての適合性は高く、規制の迅速化や標準化が鍵になります。電力不足やコスト上昇が続くと仮定すると、データセンター関連投資の前提(電源・設備コスト)を左右し、ひいてはテックのバリュエーションにも影響し得るテーマです。

4. 特集②:米中狭間での日欧連携—「競争力アライアンス」と非価格基準

EUのセジュルネ上級副委員長が来日し、官邸で首脳級と会談。7月に発表された「競争力アライアンス」を具体化し、バッテリー・サプライチェーン協力など産業政策の連携を進める狙いが示されました。米中対立と関税の逆風のなか、戦略分野で日本と歩調を合わせる意義が強調されています。

EUは中国製グリーン製品の流入で対中赤字が急拡大した反省から、公共調達・補助金で「脱炭素・供給安定・サイバーセキュリティ」など価格以外の基準を考慮する「非価格基準」を導入。コストを払って環境・ガバナンスに取り組む日欧企業には有利に働く可能性があります。日欧が連携し、自由で公正な国際ルールのアップデートを主導する構図が浮かびます。

5. 重要経済指標の結果と受け止め

米8月小売売上高は前月比+0.6%と3カ月連続の増加で市場予想を上回りました。コアも+0.7%。新学期関連の需要、無店舗販売の伸び、外食の持ち直しが寄与し、関税による価格上昇の影響の一部反映が示唆されました。消費の底堅さが確認される一方、富裕層が中所得層の弱さを補っている可能性、駆け込み需要の剥落リスクなども指摘されています。

FOMCの見通しでは、0.25%の利下げが「規定路線」と受け止められる一方、ドットの年内利下げ回数や来年以降の軌道が注目点。イベント前の株式市場は高値圏で様子見姿勢が強く、結果次第での短期的な振れ(とくに為替の一時的なドル買い戻しリスク)にも目配りが必要です。

国内不動産では、基準地価の全国平均が4年連続上昇、上昇率はバブル崩壊後で最大。北海道富良野市(住宅地)や千歳市(商業地)の大幅上昇が象徴的で、観光・半導体サプライチェーンの再編が地域別に地価を押し上げています。

6. 企業動向の要点整理

  • イーライリリー:米バージニア州に約50億ドルを投じ製造拠点新設。輸入薬への課税検討をにらみ国内生産強化を進める動きの一環です。医薬のサプライチェーン再構築が続きそうです。
  • テスラ:モデルY(2021年型)約17.4万台で予備調査。電動ドア開放不能の報告を精査へ。EV普及の進展とともに品質・安全規制対応のニュースフローは引き続き短期のボラティリティ要因。
  • スズキ:初の量産EV「ターナ」を来年1月16日発売へ。航続430km超、価格は約399万円から。国内EV巻き返しの起点として注目。

7. 投資スタンスのヒント

1)イベント通過後のシナリオ分岐
利下げ幅・ドット・会見のバランス次第。成長は強いが雇用は減速—というねじれをどうマネージするかが鍵です。金融条件の過度な緩和観測は、為替の反応やバリュエーションの再点検を呼ぶ可能性があります。

2)テーマ投資の選択と集中
AI関連投資は実経済の設備投資を押し上げていますが、データセンターの電源・コスト前提(SMR含む)や技術進歩の速度次第でリスクも。過熱感が指摘される局面では、収益化の確度、電力コスト耐性、規制リスクの3点で銘柄を選別したいところです。

3)地政学・通商の再編を織り込む
日欧の「非価格基準」は、ESG・セキュリティ・供給安定を重視する企業に相対的追い風。中長期の産業地図を左右し、バッテリーや素材、装置産業の選別に影響し得ます。


まとめ

本日のポイントは、米国の成長と雇用のねじれイベント前の高値圏での警戒感AI時代の電源制約とSMRへの注目、そして日欧連携による産業ルールのアップデートです。指標面では米小売の堅調さで景気底堅さが再確認される一方、雇用減速を受けた「保険的な緩和」観測が市場を揺らします。日本株は牽引銘柄偏重の上昇で到達感も意識される局面。テーマ選別とリスク管理を徹底し、政策・通商・規制の変化を継続的に投資判断へ織り込むことが肝要です。

  1. ↩︎

テールリスクとは、発生確率は低いものの、発生すると市場の暴落や暴騰など甚大な影響をもたらす「想定外の大きなリスク」のことです。この「テール」とは、統計的な騰落率分布の端や裾野部分を指すことに由来しており、大規模なテロや自然災害、金融危機の発生などが代表例として挙げられます。通常の市場分析では予測困難な事象であるため、投資家は損失を回避するためのテールヘッジなどの対策を検討します。

身近な例で考えてみましょう

日常生活で例えると、以下のようなものがテールリスクに似ています:

交通事故: 毎日運転していても事故に遭う確率は低いですが、一度起きると人生に大きな影響を与える可能性があります。

地震や津波: 大規模な自然災害は頻繁には起きませんが、発生すると甚大な被害をもたらします。

宝くじ: これは「良い方のテール」ですが、当選確率は極めて低いものの、当たれば人生が変わるほどの影響があります。

金融市場でのテールリスク

投資や金融の世界では、テールリスクは特に重要な概念です:

通常、株価は日々1-2%程度の変動をしていますが、まれに10%以上の暴落が起きることがあります。2008年のリーマンショックや2020年のコロナショックなどがその例です。これらは「100年に1度」と言われるような出来事でしたが、実際には思っているより頻繁に起きることがあります。

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