マクロと市場環境の全体観
米株は主要3指数が続落。AI関連を中心に高値警戒感から利益確定が優勢となり、今週の米新規失業保険申請件数やPCEデフレーターを見極めたい投資家の様子見姿勢が強まりました。ドル円は148円台後半で推移し、国内では日経平均が2営業日連続で市場最高値を更新するなど、日本株の地合いは相対的に底堅さを維持しています。地政学面では国連総会の議論を受け、欧州で防衛関連株が買われるなど、リスク認識の再浮上がみられました。
専門家の解説:当面の相場観と日本株の課題
番組内の専門家は、日本株の上昇を「BPS(1株当たり純資産)の蓄積が主因」で説明。TOPIXの長期上昇要因を分解すると、BPS寄与が7割弱、ROEが約4分の1、PER拡大は1割未満にとどまるとの指摘がありました。今後さらに株価のレベルを切り上げるには、ROE水準の持続的上昇とPER拡大が不可欠で、自社株買い・増配だけでなく、攻めの設備投資、研究開発、人材獲得といった将来成長に資するコミットメントが重要と整理しています。足元は高値圏レンジながら、中期では「割高とは言い切れない」という見立てです。
一方、為替の専門家は本日のドル円レンジを148.00〜149.50と想定。英国はインフレ・財政の両面から楽観しづらく、年次予算(11/26)に向け財政悪化懸念がポンドの上値を抑えやすいとの見方。日本でも補正予算論議の進展次第で長期金利・為替が影響を受ける可能性に注意を促しています。
特集1:米政府の「戦略資源・戦略産業」への関与強化
リチウムアメリカズへの最大10%出資を米政権が検討との報。ネバダ州タッカーパス鉱山はEV電池向け炭酸リチウムの供給源として期待され、報道を受け同社株は約2倍に急騰しました。背景には、中国依存脱却を通じたエネルギー安全保障の再構築、および「政府がリスクとリターンを共有する」という新たな産業政策の色合いがあります。既に半導体のインテルに対してはCHIPS関連の出資スキームが進んだとの解説もあり、今後も資源・先端産業への政府のエクイティ関与が広がる可能性があります。
関連して、インテルがアップルに出資を要請との一部報道。出資にとどまらず事業連携の深化も模索しているもようで、報道後インテル株は6%超上昇。生成AI需要の波に合わせ、設計・製造・データセンターの川上から川下まで資本と案件を呼び込みたい思惑がにじみます。
さらにオラクルは180億ドルの社債を発行。オープンAI等との大型クラウド契約に伴うDC(データセンター)投資の資金調達とされ、需要倍率は約4.9倍と旺盛でした。クラウド基盤競争は引き続き「設備投資力」が勝敗を分ける局面にあります。
特集2:米SECの“仲裁条項”容認方針とIPO市場
SECが、定款で株主訴訟を仲裁に限定する記載を容認する方針との報。米国特有の巨額訴訟リスク(昨年の新規提訴225件、平均和解額4,240万ドル)が上場コストを押し上げている現状に対するテコ入れです。支持派は「IPO回復への一助」と期待する一方、反対派は「投資家保護の後退」「抑止力の低下」を懸念。デラウェア州会社法との整合性という法的争点も残り、導入・定着の行方は不透明です。とはいえ、資本市場の国際競争力という観点から、“告訴リスクの見直し”は米国の構造課題として注目度が高まっています。
欧州景況:IFO景況感の鈍化とユーロの相対強さ
ドイツのIFO景況感指数(9月)は87.7と前月から低下。現状・期待とも弱く、企業マインドの慎重化が続きます。ただ、為替では最近3カ月の比較でユーロの堅調さが目立ち、ドル安の受け皿・ECBのスタンス・中長期の財政・防衛支出拡大余地などが支えに。対照的に円は日銀の利上げがなお見通し段階で、実質金利のマイナスが続く分、相対的に弱さが残るとの整理でした。
日本市場の展望:東証制度論議と投資行動
グロース市場の上場維持基準は、「上場5年・時価総額100億円」へ段階的に見直しとの方向感が示され、満たせない企業のスタンダード市場移行が増える見込み。結果としてスタンダードは1,800社規模へ拡大し東証の中核的存在になる一方、現状のスタンダードは時価総額中央値が小さく(約82億円)・流動性が乏しく(中央値:日次売買代金1,600万円)・支配株主色が強いなどの課題が指摘されています。
市場関係者のヒアリングでは、相続評価を低く抑える意図で株価を上げたくないと受け取れる行動も一部で散見されるとの厳しい声。少数株主保護の強化、流通株式比率・政策保有株の見直し、実効的なコーポレートアクションが求められます。上場維持基準は予見可能性確保のため頻繁に変えるべきではない一方、スタンダードの“型”を再定義し、企業価値向上のインセンティブをはっきり持たせる制度設計が急務です。
企業トピック:オリオンビール上場と成長戦略
オリオンビールが本日、東証プライムに上場。2019年のカーライル/野村の支援で「見える化」を進め、2025年3月期は売上高288億円で過去最高見込み。上場は既存株の売出で資金調達は行わず、県外・海外でのブランド拡張と観光産業との連携(新テーマパーク出資、ホテル運営など)によって成長を狙います。ブランドの“コモディティ化”回避を重視し、グッズや体験価値で“沖縄らしさ”を磨きつつビール販売につなげる方針。もっとも、地元向けの酒税軽減措置は来年廃止予定で、価格・収益への影響管理が新たな経営課題になります。
経済指標・イベント:本日の注目点
- 日本:7/30–31開催分の日銀議事要旨公表。賃金面からのインフレ持続性評価が焦点。加えて、企業向けサービス価格指数の構成で、人件費比率の高いサービスの伸びが続いているかを確認したいところです。
- 米国:4–6月期GDP確定値、PCEデフレーター。利下げ再開後の景気・物価減速の度合いを見極める材料。新築住宅販売は8月に年率80万戸へ急増しており、価格調整や販促の効果が一時的に表れた可能性。
- 欧州:IFOの弱さが示す成長鈍化リスクを織り込みつつ、財政・防衛支出の多寡がユーロの中期基調を左右。
地政学と政策:市場インパクトの整理
ウクライナ情勢では、ゼレンスキー大統領が「同盟と武器の必要性」を強調。欧州市場では防衛関連が物色されました。ロシアはVATを22%へ引き上げる法案を提出し、軍事費調達を明確化。いずれも防衛・国家安全保障領域への資金配分が増えるトレンドを補強します。APEC前の米大統領の来日検討など、外交イベントも為替・防衛関連株の短期材料となり得ます。
投資アイデアの方向性(中期)
- 日本株の質的成長に連動:ROE改善とPER拡大の両輪を狙う企業(積極的投資・人材・研究開発・価格決定力強化)を選別。
- 戦略資源・データセンター投資の裾野:リチウム/素材、半導体製造、電力・冷却、DC建設、クラウドの設備投資波及を俯瞰。
- ガバナンス・株主保護の変化:米SEC方針、東証制度議論の進展で、開示・株主権利・流動性改善を本気で進める企業に再評価余地。
- 観光×地域ブランド:オリオンのように**“体験価値”でブランドを磨く地方発企業**に注目。税制・コスト構造の変化を踏まえた価格戦略と収益力を検証。
まとめ
- 景気循環の踊り場×国家戦略の再配分が同時進行。米PCEや欧IFOの鈍さが続く一方で、資源・半導体・クラウドへの公的・私的資本の流入は加速。
- 日本株はBPS主導の上昇から次の段階へ。PER拡大のための**“攻めの投資”とガバナンスの深化**がカギ。
- 制度・規制の節目(米SEC、東証スタンダード再定義)が、資本コストを意識した経営を促す圧力に。
- 地政学・防衛支出の構造変化は、欧州防衛株や資源セキュリティ関連に資金を呼び込む可能性。
