2025年9月第2週:利下げ期待が市場を動かす中、AIと地政学リスクが交錯する一週間

2025年9月第2週:利下げ期待が市場を動かす中、AIと地政学リスクが交錯する一週間

2025年9月第2週(9月8日~12日)は、米国での雇用統計の大幅な下方修正とインフレ指標の動向から、年内利下げへの期待が一段と高まった一週間となりました。金融市場では利下げの「幅」に関心が移り、株式市場はAI関連投資に牽引されつつも、実体経済の減速懸念との間で揺れ動きました。欧州ではECBが金利を据え置き様子見姿勢を継続し、日本では自民党総裁選の行方や企業のガバナンス改革が注目されました。また、Appleの新製品発表や旅行サイトのアゴダを巡るトラブル、北九州市のサステナブル戦略など、多岐にわたるトピックが経済の動向に影響を与えました。

1. 米国経済の動向と金融政策

今週の米国経済の最大の注目点は、雇用統計の大幅な下方修正とそれに続く物価指標の動向でした。

雇用統計の減速:米労働省は昨年4月〜今年3月の非農業部門雇用者数を**-91万1千人下方修正し、月平均で約7.5万人減少したことが示されました。8月の非農業部門雇用者数も予想を大幅に下回り、失業率は2021年10月以来の水準に上昇するなど、となりました。これにより、FRBの年内利下げ再開観測が強まり、市場では9月のFOMCでの利下げ実施が確実視**され、その幅(0.25%か0.50%か)に注目が集まっています。詳細はこちらをご覧ください:2025年9月8日|経済の見方と今後のマーケット展望2025年9月9日|経済の見方と今後のマーケット展望2025年9月10日|経済の見方と今後のマーケット展望

インフレ指標の動向:8月の米生産者物価指数(PPI)は前月比マイナス0.1%と予想外の低下を示し、7月分も下方修正されたことで、インフレ圧力の一服感が意識されました。一方で、8月の米消費者物価指数(CPI)は前年比+2.9%、コアは+3.1%と市場想定の範囲内でしたが、前月比+0.4%はやや強めとの見方も出ました。CPIの項目別では、関税の影響を受けやすい自動車や衣料、航空運賃が押し上げた一方、企業が関税コストを一部吸収することで物価はピークアウトしやすいとの見方も専門家から示されています。これらの物価指標の結果次第では、「0.5%利下げシナリオ」への期待と警戒が交錯する地合いとなっています。より詳しい分析はこちらをご覧ください:2025年9月11日|経済の見方と今後のマーケット展望

市場の反応:雇用統計の下振れとインフレ鈍化のサインを受け、長期金利は一時4%割れまで低下しました。株式市場は利下げ期待を支援材料としつつも、景気減速の深さ次第では循環株の選別が必要であり、「金融相場から業績相場への橋渡し」を慎重に見極める必要があります。

2. 欧州経済と金融政策

欧州中央銀行(ECB)は今週の理事会で政策金利の据え置きを決定しました。

据え置きの背景:7月に続き2会合連続の据え置きであり、通算200bpの利下げを経て中立金利近辺に達したこと、米EU関税合意やユーロ圏景気・物価の上振れが背景にあるとされています。当面は様子見姿勢を維持し、年内は据え置き基調、来年後半には利上げ議論へ移る可能性も指摘されています。

リスク要因:フランスの政治・財政不確実性がリスク要因として挙げられますが、ユーロの為替はフランス単独要因よりも、米株などグローバルなリスク選好との相関が高いと見られています。

米EU関税合意:自動車・医薬品等を含め一律15%で決着し、ユーロ圏全体では吸収可能な規模と評価されています。

3. 日本経済と市場の展望

日本の市場は、米株の強さに支えられつつも、国内の政治情勢や日銀の政策判断、企業ガバナンス改革が注目されました。

日本株の展望:PBR(株価純資産倍率)は0.6倍から1倍弱へ、ROE(自己資本利益率)は6〜8%から8〜10%へ改善が見られるものの、ROE10%以上の企業は約4割で横ばいであり、ROE10%台の定着が株価上昇余地(+10%以上)を開くとの展望が示されています。海外マネーの基準が「ROE10%以上」であるため、これが日本株の中長期的な株価リターンの鍵となります。

為替の動向:米CPIとFOMCの利下げ幅観測、日銀会合(9/18-19)での政策判断などを材料に、「ドル安圧力」と「円安基調」が綱引きする構図です。株式堅調が続く限り円安基調は維持されやすいとの見方もあります。また、日米で合意した「約80兆円規模の対米投資ファンド」は、政府系のJBIC資金を活用するため、為替市場で新規の大規模な円売り・ドル買いが直接生じにくい枠組みである点が指摘されました。

日銀の政策判断:専門家によると、日銀は展望レポート公表に合わせた3カ月単位のサイクルで政策判断を詰めるため、直近の9月19日会合での政策変更は起こりにくいと見られています。10月の短観や支店長会議報告、要人発言が今後のヒントとなるでしょう。

国内政治情勢:石破総理の辞任表明と自民党総裁選の行方が注目されています。政局不透明感の後退や財政政策期待は株式市場の支えとなる一方、長期・超長期金利には財政リスクプレミアムが意識され、為替市場にも波及する可能性が指摘されています。

企業景況感:国内企業物価指数(8月)は前年比+2.7%で、農林水産物や飲食料品が高い伸びを示し、価格転嫁の進展がうかがえます。法人企業景気予測調査(7–9月期)では、大企業の業況判断が2期ぶりにプラスに転じ、半導体関連需要が下支えしていることが示されました。

4. 主要企業・セクター動向

今週は、AI関連企業の動向、Appleの新製品、ESG投資、旅行業界など、多岐にわたる企業・セクターのニュースが報じられました。

AI関連企業

    ◦ ブロードコム:AI半導体で100億ドル規模の新規受注を獲得し、新規顧客はOpenAIとの観測も出ています。CEOの長期的コミットメントとM&A巧者としての評価が株価を下支えしています。

    ◦ オラクル:OpenAIとの2027年開始・5年間総額3,000億ドル(44兆円)規模の大規模クラウド契約が取り沙汰され、株価が一時40%超高となる場面もありました。AIインフラ需要の強さが再確認されています。

    ◦ ASML:Mistral AIに13億ユーロ出資し、欧州のAIプレゼンス強化を狙います。

    ◦ AI電力需要:AIの電力需要は検索の10倍規模とされ、冷却・クリーン電源関連企業(例:バーティブ、ネクステラ)が注目を集めています。

アップル

    ◦ 新製品発表:厚さ5.6mmで史上最薄のiPhone Airを発表し、AirPodsには同時通訳機能を持つApple Intelligenceが搭載されることが明らかになりました。価格は159,800円〜で、12日予約開始、19日発売されます。

    ◦ 戦略と課題:AI機能による買い替え検討は7%に留まるとの調査もあり、体験品質で競争するアップルの戦略に注目が集まります。デザインと体験で独自路線を展開する一方、価格据え置きによる利益率圧迫懸念も指摘されています。新型iPhone発表後、株価は難調だったとの報告もあります。

ESG・サステナブル産業

    ◦ 北九州市のサステナブル戦略:かつて重化学工業で知られた北九州市が、循環型産業・再エネ・省エネ住宅を束ねた**“サステナブル産業拠点”へ転身を図っています。エコタウンでの資源循環の高度化、洋上風力の一大拠点化、省エネ住宅「北九ZEH」の推進などが具体的な取り組みです。共通課題は「コストの壁」と「需要規模の確保」ですが、“港湾×産業集積”で国内外需要を取り込み、GXの潮流を好機に“稼げるエコ”の実装を目指す**姿勢が示されています。詳細はこちらをご覧ください:2025年9月11日|経済の見方と今後のマーケット展望

    ◦ M&A:アングロ・アメリカンとテック・リソーシズが合併合意し、銅供給の効率化が期待されます。

    ◦ グリーンボンド:伊藤忠商事が国内初の「オレンジボンド」を発行し、女性活躍推進資金に限定するESG投資の需要を示しました。

旅行・消費関連

    ◦ アゴダのトラブル:旅行予約サイト「アゴダ」を巡り、予約成立メールがあるのに宿泊不可、返金困難、未契約施設の掲載といったトラブルが相次ぎ、観光庁が改善申し入れを行う事態となっています。

    ◦ デルタ航空:7-9月期の売上高見通しを上方修正しましたが、ビジネスクラス需要が牽引する一方、米国内エコノミーは前年割れと明暗が分かれました。価格抵抗や財布の選別が進む局面では、強いブランドや高付加価値の企業に相対優位があることが示唆されます。

    ◦ クラーナ:NY証取に上場し、公開価格を上回る初値で大型ディールが成立しました。BNPL(手数料無料の分割払い)の利用者は1億人を超えると紹介され、フィンテックの成熟と収益モデルの耐性が焦点となっています。

その他の企業動向

    ◦ ノボノルディスク:全従業員の約1割(最大9,000人)の人員削減を発表しました。肥満症治療薬などの伸び悩みを背景に効率化を急ぐ方針です。

    ◦ メディア再編:パラマウント・スカイダンスがワーナー・ブラザース・ディスカバリーの全事業買収案を準備するとの報道があり、配信競争の激化に対し規模拡大で対抗する狙いが伺えます。

    ◦ IP拡張:NetflixのK-POPアニメが世界的ヒットとなり、サウンドトラックの収益分配やライセンス需要の急増など、IP(知的財産)拡張による波及効果が注目されます。

日本企業とアクティビズム:エリオット・マネジメントが関西電力の株式を保有する上位株主入りし、増配・自社株買い等の資本政策強化を要求すると報じられました。国内ではPBR1倍割れや含み資産を背景に、現金・有価証券の活用とROE改善を迫る動きが広がる見通しです。

5. 注目トピックとリスク要因

今週は、地政学リスク、AIと人材、そして将来の技術トレンドに関するいくつかの注目トピックがありました。

地政学リスク

    ◦ 中東情勢:カタール・ドーハでの爆発報道を受け、原油・金が上昇し、金価格は最高値を更新しました。

    ◦ 欧州情勢:ロシアの無人機がポーランド領空を侵犯したと発表され、地政学リスクの火種として意識されました。

生成AIと人材:海外ではグローバル分散採用が進む一方、日本ではAIネイティブ人材の確保AIリテラシーの底上げが重要とされています。製造業においては、ハードウェアにソフトウェアの価値を付加することで競争力を回復する余地があると考えられています。

量子コンピューティング:AI・半導体に続くテーマとして量子計算が注目されており、D-WaveやIonQなどが取り上げられています。収益化の見通しは5年以内との期待もありますが、ボラティリティも高いため、段階的な投資が無難とされています。

IPO市場の回復:2025年の米IPO市場は前年並み、2021年以来の好調が見込まれており、「量より質」が特徴です。

6. 今週のまとめと投資家への示唆

今週の経済ニュースから、投資家にとって重要なポイントをまとめます。

1. 米国:利下げ相場の初期段階

    ◦ 米雇用統計の大幅下方修正とインフレ指標の鈍化は、FRBの複数回利下げ観測を強めています。利下げはバリュエーションを押し上げる支援材料となる一方、実体経済の弱さが鮮明化すると業績見通しの下方修正リスクがあるため、金融相場から業績相場への橋渡しを慎重に見極める必要があります。金利敏感株や成長株に追い風ですが、景気減速の深さ次第では循環株の選別が重要です。

2. 日本株:ROE10%以上の定着が鍵

    ◦ 日本株は米利下げ期待と国内の政局期待に支えられる一方で、ROE10%以上の定着が中長期的な株価リターンの鍵となります。アクティビストの参入による資本効率改善圧力が高まる可能性があり、公益企業など社会的使命と資本効率のバランスが問われるセクターでは、資本政策の“適温”を見極めることが重要です。為替は当面円安バイアスが続く可能性がありますが、賃上げ・物価・政策正常化の進捗次第で変化する余地があります。

3. AI競争:「機能の数」より「体験の質」

    ◦ AI競争は単なる機能の多さではなく、体験の質が重要であるとアップルやブロードコムの戦略が示唆しています。AIインフラ(データセンター/電力)の連鎖は持続的なテーマであり、公益セクターはデータセンター投資や製造業回帰による電力需要拡大、利下げ局面の追い風で、「安定×成長」の再評価の余地があります。

4. エコの事業化:ハブ機能とスケールが鍵

    ◦ 北九州市の事例は、エコを“事業化”するにはハブ機能とスケールが鍵であることを示しています。港湾・人材・訓練・整備・金融の「面整備」が整う地域が、GX(グリーントランスフォーメーション)投資の受け皿として先行者利益を得られるでしょう。

今後1カ月は、**「米利下げの歩幅」「日銀の示唆」「欧州の政治・財政不確実性」**の三点が、金利・為替・株式のボラティリティを左右しやすいと見られます。短期では材料に敏感な展開が予想されますが、中期では利下げ環境と企業収益の名目押し上げが市場を下支えするというのが基本的なシナリオとなりそうです。

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