世界と日本の経済・マーケット展望:政府閉鎖、AI資本循環、EV減速の先に何が見えるか
米国では一部政府機関の閉鎖が2日目へ。市場は短期的な影響を限定的とみなしつつも、統計発表の遅延などを通じた不確実性がじわじわと高まっています。主要株価指数は雇用関連の民間統計やAI関連の思惑を手掛かりに最高値更新を続けましたが、セクター間の明暗や政策リスクの積み上がりが来週以降の変動リスクとなりそうです。
現在の経済の見方:米政府閉鎖の「統計空白」と政策不確実性
米政府の一部閉鎖は、短期なら市場インパクトは限定的との評価が優勢です。ただし長期化すると、政府統計の公表延期が続き、政策判断の材料が欠落する「統計空白」が拡大します。翌日に予定されていた雇用統計の発表延期観測が強まり、労働市場減速や追加利下げ観測が意識される展開となりました。
ホワイトハウス関係者は、政府職員の解雇規模が「数千人」に及ぶ可能性に言及。財務長官もGDPへの下押しリスクを示唆しており、政策の先行き不透明感が増しています。
一方、日本では日銀・内田副総裁が「景況感は良好な水準」との認識を示しつつ、想定通りなら政策金利を引き上げる従来方針を確認。不確実性として米国の関税政策の波及に言及しました。
今後のマーケット展望:AI期待と金利低下観測がけん引、ただし「材料の質」に注意
米株:高値圏の牽引役は引き続きIT
過去の政府閉鎖が株価に必ずしもネガティブでなかったとのデータ、7–9月期決算への期待、そして利下げ観測が支えとなり、主要3指数は最高値を更新。AI需要期待(オープンAIの評価額報道など)を背景に半導体関連がナスダックを牽引しました。
ファクトセット集計ベースでは、S&P500の7–9月期は前年比+7.9%増益見通し。なかでもITセクターは+20.9%増へ情報修正、金融も利下げ恩恵で+11.0%増へ上方修正とされています。
為替・金利:リスク回避の米債買いで長期金利低下=ドル安圧力
政府閉鎖の長期化観測や統計空白を背景に、米長期金利は低下、ドルは軟化。短期的には円高方向の余地もありますが、来年にかけた日米金利差の大幅縮小は見込みにくく、時間とともにドル高・円安方向へ回帰する可能性が指摘されました。
コモディティ:原油は増産思惑で4日続落、金は一服
原油先物はOPECプラスの増産継続観測で4日続落、金も最高値圏から反落。高値圏にあるリスク資産のヘッジ需要と、金利低下観測の綱引きが続きます。
特集トピックの要点
1) 生成AI:未上場の資本循環が市場心理を押し上げ
オープンAIのプライベート市場での評価額が5,000億ドルに達したとの報道。従業員保有株の一部を投資家が取得した格好で、未上場領域のマルチプル上昇が上場ハイテク株のセンチメントも下支えしました。
2) EV:補助金打ち切り後の需要減速リスクと「ロボタクシー」転機
テスラの7–9月世界販売は49万7,099台(前年比+7.4%)で過去最高。ただし、米補助金終了前の駆け込み需要の反動が見込まれ、CEO自身も先行き厳しさに言及。
足元の米EV市場は補助金なしでは価格・充電網の課題から伸び悩み、シェア縮小を予想する声も。一方、自動運転配車「ロボタクシー」の拡大はEV需要の新たな需要源となる可能性があり、Waymoやテスラが都市展開を進めています。
3) 物流自動化:大福(ダイフク)にみる受注回復と供給能力強化
自動搬送・自動倉庫の受注は自動車・半導体向けで改善の兆し。高層自動倉庫の実験塔など生産・開発体制の強化を進め、株主還元余地も示唆されました。一方で、国内外の競争激化やEC大手の台頭という構造課題も残ります。
4) 企業買収:バークシャーがオキシケムを97億ドルで取得
バークシャー・ハサウェイはオキシデンタル子会社のオキシケムを97億ドルで買収(全額現金、年内完了見込み)。化学製品の下流領域への厚みづけで、2022年の保険会社買収に続く大型案件となります。
経済指標と市場の受け止め
- 採用計画と雇用関連:チャレンジャー社集計の9月採用計画は117,313人で前年比▲71%と低調。人員削減も2020年以降で最多水準に拡大し、政府職員が3割超を占めました。雇用の減速は利下げ観測を強める一方、政府閉鎖で公的統計の遅延が評価を難しくしています。
- ISM動向:非製造業総合指数の市場予想は51.8(前月52.0から小幅低下)。製造業では関税の悪影響が企業コメントにも表れ、需要・投資の下押しがうかがえます。サービスへの波及有無が焦点。
企業・資本市場トピック
- 東京市場における自社株買いの存在感:上半期、事業法人は合計6.27兆円の買い越しで過去最高。海外勢の買い越し額を上回り、企業が日本株の最大の買い手に。資本効率改善圧力が背景です。
- 女性役員比率:東証プライムの女性役員比率は18.4%(前年比+2.3pt)。ただし社内役員は2.2%と低く、内部登用の遅れが課題。
- 暗号資産リスク:SBI系海外子会社で約2,100万ドルの不正流出。国内交換業には波及なしと説明。インフラ面のリスク管理は引き続き重要です。
専門家の解説:為替・金利・政策の三角関係
為替は、政府閉鎖の長期化観測→米債買い→長期金利低下→ドル安、という流れが短期的に続きやすい構図。ただし、日銀の政策は「いつでも利上げできるフリーハンド」を意識しつつも、関税・賃上げ見通しなどハードデータの確認を重視。自民党総裁選の結果によって短期の為替トレンド(円安容認か是正か)に差が出る可能性がありますが、中期では日米金利差が大きくは縮小しにくく、段階的にドル高・円安へ戻るシナリオが本線との見立てが示されました。
投資家向け示唆(5点)
- 統計空白リスクの管理:政府閉鎖の長期化で公式統計が遅延する場合、ADPや民間調査へ依存度が高まる点を織り込み、ボラティリティ上振れに備える。
- AI関連は「未上場→上場」波及も:オープンAIの高評価は設備投資需要(半導体・データセンター)と市場心理の両面を刺激。過度な期待とバリュエーションの乖離には注意。
- EVは循環局面へ:補助金効果の反動減を織り込む一方、ロボタクシー普及の進度をセクターの先行指標としてトラッキング。
- 日本株の需給:自社株買いの下支え:企業の買い越しが継続するかを決算・CF動向から点検。
- 金利低下局面でのセクター配分:IT・金融の増益修正を念頭に、決算シーズンのガイダンス重視で配分最適化。
まとめ
本日のポイントは、①米政府閉鎖に伴う統計遅延と政策不確実性、②AI関連の資本循環が上場市場にも波及、③EVは補助金の反動減に直面しつつ新需要(ロボタクシー)に活路、④日本株は企業の自社株買いが需給を支える、の4点です。短期は金利・為替の振れが主導し、中期は企業決算の「質」と政策の実行力がカギになります。
