2025年10月16日|経済の見方と今後のマーケット展望

2025年10月16日|経済の見方と今後のマーケット展望
目次

1. 経済環境とマーケットの見方(総括)

米国では主要行の決算が総じて堅調で、投資銀行業務の回復や株式関連収益の伸長が確認されました。一方で、米中対立や関税動向、地政学リスクといった不確実性はなお残存しています。FRBの地区連銀経済報告(ベージュブック)は「経済活動は概ね横ばい、雇用は安定、消費は小幅減速」との評価で、関税の影響を通じたインフレ加速の指摘もあり、年内・年明けの利下げペースは慎重化しやすい地合いです。加えて、米政府機関の一部閉鎖で一部マクロ統計の公表が遅れる可能性があり、短期的な視界はやや不鮮明です。為替は円安基調が続く一方、国内政治の不確実性が円相場の変動要因として意識されています。株式はAI関連を中心に成長期待が強いものの、先行バリュエーションの高さから、決算が「予想比でどの程度サプライズか」によっては短期の調整も交錯しやすい局面と整理できます。

2. セクター別・テーマ別の注目点

  • AI・半導体:オランダの半導体製造装置大手ASMLの決算では受注指標が市場予想を上回り、AI向け需要の強さが再確認されました。TSMCの決算は売上高の大幅増が見込まれる一方、先端工程の歩留まりや海外工場のコストが利益率に与える影響、そして来期の設備投資計画がグローバルな装置・材料株に波及し得る論点です。
  • 金融:米大手行では投資銀行部門とトレーディング収益の改善が明確で、とりわけM&A助言や株式関連での回復が目立ちました。もっとも、個別には保険セクターで収益力悪化を嫌気する動きもあり、セクター内の明暗が続いています。
  • コモディティ:原油は米中摩擦の懸念や供給観測から軟化、金は最高値更新が続くなど、インフレヘッジ・安全資産志向が根強い構図です。
  • 国内(日本):中間決算期の企業業績は総じて堅調との見方で、円安進行が外需企業の追い風に。設備投資計画(IT・DX、人手不足対応投資)も高水準が見込まれ、生成AIやデータセンター周辺(電線、電子部品、装置)などの裾野で収益モメンタムが意識されています。

3. 特集トピック:「専門家の解説」— 日銀ETFの超長期売却と財政への含意

日銀は保有ETFの売却を「100年以上」の時間軸で進める方針を示し、市場への攪乱回避と日銀財務の安定を両立させる設計です。解説では、ETF保有が**(1)分配金収入**(超過準備付利の負担増に対する相殺)と**(2)評価益**(上昇局面での国庫納付金原資)という二経路で日銀財務にポジティブに寄与する可能性が提示されました。将来的には国庫納付金を原資とする政府系ファンドの選択肢にも言及があり、税収以外の財源を持つことの意義が指摘されています。もっとも、超長期の仮定には不確実性が大きく、運用・売却設計は市場環境の変化に応じた機動性が求められます。

4. 最近の経済指標と受け止め

  • NY連銀製造業景況指数(10月):ヘッドラインは大幅改善で、新規受注・出荷が急回復。6か月先見通しも今年1月以来の水準へ上昇し、先行き楽観の広がりが示唆されました。物価面では販売価格のじわ上がりも確認され、インフレ圧力の根強さを示す面も。これらはFRBの慎重姿勢(利下げの段階的・限定的)を補強し得る材料です。
  • ベージュブック:全体は横ばい、雇用は概ね安定、消費は小幅減速。関税を通じて一部地区でインフレ加速の報告。物価と需要の綱引きが続く中、金融環境の過度な緩和は志向しにくい評価がにじみます。
  • 米個人消費の二極化:高所得層の支出比率が長期高水準。住宅ローン低金利の既存保有層や資産価格上昇の恩恵が上位所得層の消費を押し上げる一方、賃貸世帯はインフレに直面。企業側のコメントでも、高価格帯と低価格帯が相対的に堅調、中価格帯からのシフト(アパレルは百貨店→オフプライス、外食はファストカジュアル→ファストフード)が観察されています。年末商戦に向けてもこの消費構造が続くとの見方です。

5. 主な企業動向(決算・案件)

  • 米大手金融:バンク・オブ・アメリカは総収入・純利益・EPSが予想上振れ、投資銀行部門は約4割超の増収、純金利収入も伸長。モルガン・スタンレーは純利益が約45%増、IPO助言や株式トレーディングが牽引。市場では決算を好感する一方、保険の一角(プログレッシブ)では収益悪化観測で弱含みと、セクター内の分化も目立ちました。
  • 半導体・AI:ASMLの受注は想定超。来期の中国向け売上は米中対立の影響で大幅減の見通しながら、グローバル合算では今年水準を下回らない見込み。TSMCは売上の大幅増が見込まれる一方、先端ノードの歩留まりや海外工場コストが利益率の焦点。AIサイクルの底堅さがサプライチェーン全体の設備投資を支えています。
  • データセンターM&A:ブラックロック主導の企業連合がアラインド・データ・センターズを約400億ドルで買収へ。マイクロソフト、NVIDIA、xAIなどが関与し、AIインフラに最大1,000億ドルを投資する計画が示されました。AI計算需要の爆発に伴う電力・冷却・不動産のボトルネック解消がテーマ化しています。
  • 欧州ラグジュアリー:LVMHは中国需要の改善で好決算、関連銘柄に追い風。高価格帯消費の底堅さを裏づける事例です。
  • 国内企業:東宝は26年2月期の純利益見通しを上方修正し最高益更新へ。三菱UFJFGは国立競技場の命名権取得(MUFGスタジアム、推定5年で約100億円)。ブランド・顧客接点の強化とスポーツ経済圏の活用を示す動きです。

6. 金利・為替・政策の交錯

為替は円安圧力が続く中、金利差だけでは説明しにくい局面が増えています。短期的には金利差と相関も、4月以降は逆相関気味の局面が観測され、ポジション調整(円ロングの巻き戻し)や実需フロー、政策関連の思惑など複合要因が示唆されました。国内では日銀の利上げ期待が政治日程・与党内情勢の変化とともに後退した時期もあり、今後の審議委員講演(タカ派・ハト派のバランス)への反応度合いが、短期の織り込みを左右しそうです。

7. 政治情勢(国内)と市場への含意

自民党と日本維新の会が政策協議入りで一致し、連立を視野に入れた協力が進む場合、政権運営の不確実性は一部後退しうる一方で、野党側の候補一本化は難度が増しています。21日の臨時国会に向けた与野党の駆け引きは、為替・株式の短期ボラティリティ要因であり、政策の具体化(社会保障改革、地方・都市インフラ、成長投資枠組みなど)が材料視される見通しです。

8. 日本企業決算シーズンの見どころ

国内中間決算は総じて良好との見立てで、会社計画に対する進捗は堅調、通期の上方修正も一部想定されています。利益率計画の改善(製造・非製造ともに前年同期比で上昇)や設備投資計画の増加(IT・DX、人手不足対応、生成AI・データセンター関連)が確認され、資本効率重視・価格転嫁の定着が背景にあります。注目セクターは、エネルギー・防衛、電線・部材、半導体・装置、電子部品、機械、建設、不動産、ITサービス、銀行など。決算では、受注動向・価格動向・値上げ浸透・株主還元策の4点に着目したい局面です。

9. 投資家向けチェックリスト(汎用)

  1. 決算の質:売上・利益の上振れだけでなく、受注・バックログ、価格転嫁、在庫回転、FCFの質を確認。
  2. AI関連の持続性:HPC/推論向けキャパ投資の時期・電力接続の制約・供給ボトルネック(パッケージング、光部材、冷却)を横断で点検。
  3. 政策と為替:国内政治の組み合わせ・日銀スタンス・米関税動向が同時に効く局面。ガイダンス為替前提と実勢のギャップに留意。
  4. 米消費の二極化:高価格帯と低価格帯の強弱、トレードダウンの進捗を、小売・外食・旅行各社のコメントから継続確認。
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