1. 現在の経済の見方と今後のマーケット展望
米株は9月最終取引まで堅調。主要3指数が続伸し、ダウは史上高値を更新しました。個別ではヘルスケアと情報技術が相対的に強く、エネルギーと一般消費財がさえない構図。ただし、10月入りの手前で米つなぎ予算交渉が難航し政府閉鎖(シャットダウン)リスクが市場心理の上値を抑える材料になっています。重要統計(雇用統計やCPI)が閉鎖中は発表延期となる可能性が指摘され、短期は不透明感が残る局面です。
米系ストラテジストの見立ては「シャットダウンは一時的で、いずれ暫定予算で再開」という前提のもと、市場インパクトは限定的との声が優勢。むしろ統計空白や人員一時解雇が金利低下(利下げ期待)を補強しうるとの受け止めもあり、年末〜来年にかけては上昇継続シナリオを維持する見方が目立ちます。10月相場は戻り待ちが厚く上値が重い一方、押し目は拾われやすいという「調整を伴う上昇基調」を想定。AI投資サイクルは引き続き強いものの、直近の期待が相当程度織り込まれており“サプライズは小さめ”との冷静なトーンです。
日本については、長期金利が約17年ぶりの水準まで上昇するなか、日銀の早期利上げ観測(10月または年内)が急速に織り込まれています。9月決定会合での「利上げ主張の反対票2名」や野口審議委員の発言がタカ派シグナルと受け止められ、国債入札の需給にも影響が確認されました。短期ゾーン(2年債)は政策観測の直撃を受けやすく、イベント(本日の日銀短観、副総裁講演など)次第で10月利上げの思惑がさらに強まる可能性があります。
中期視点では、日本経済が「ディスインフレ期」から「正常な物価上昇期」へと移行しつつあるとの見解が紹介されました。物価上昇の定着観測は、企業の価格転嫁と利益率改善を後押しし、日本株の評価(バリュエーション)引き上げ余地につながるとの指摘。上昇基調は維持しつつも、足元はピッチがやや鈍る場面もあり得る、というのがベースシナリオです。
2. 特集トピックの要点
(1) 米政府閉鎖のリスクと市場
与野党の対立が続き、政府閉鎖の可能性が高まっています。閉鎖入りなら一部の重要統計が遅延し、市場の判断材料が減ることでボラティリティ要因となり得ます。ただし、過去事例にならった「暫定予算で再開」シナリオがベースで、影響は限定的とする見方が優勢です。
(2) AIインフラ大型契約:CoreWeave × Meta
CoreWeaveがMetaと最大142億ドル規模の長期契約(~2031年12月、延長オプションあり)を締結。AI開発に必要なデータセンター等インフラを提供します。半導体・AI関連のセンチメント改善に寄与しました。
(3) 「ジョブハギング」増加とIT雇用環境
米労働市場で転職を控える「ジョブハギング」が増加。NY連銀の再就職自信指標は低下し、とくに年収10万ドル超でも弱含み。ビザ政策(H-1B申請手数料の大幅引き上げ)も、IT人材の流動性に逆風となる懸念が示されました。賃金上昇圧力の緩和=利下げ余地拡大という波及も指摘されています。
(4) 国内政治:自民党総裁選の終盤戦
小泉氏と高市氏が競る構図ながら、動画コメント問題の余波で情勢は流動化。外交経験を持つ林氏の支持拡大観測もあり、決選投票の組み合わせは予断を許しません。月内にも予定される米首脳会談をにらみ、外交・経済政策の実行力が焦点です。
3. 発表のあった経済指標と市場の受け止め
- JOLTS(8月):求人件数は722.7万人で市場予想を上回る一方、採用は減少、自発的離職率も年内最低水準。減速を示唆するミックスな内容で、需給の引き締まり修正が進む印象。
- 消費者信頼感(9月、Conference Board):総合指数94.2と5か月ぶり低水準。「仕事は十分にある」との回答比率は26%まで低下(2021年2月以来)。家計マインドの弱さが浮き彫りに。
- 先行イベント:本日の日銀短観、米ADP雇用報告、米ISM製造業。ADPは直近、雇用統計とトレンド一致度が改善しており、雇用統計が仮に延期でも相場の判断材料として重みが増す可能性。
市場の受け止め:
米労働需給はひっ迫から均衡へと軟着陸色が強まりつつあり、物価面では賃金圧力のピークアウトが示唆されます。米金利・ドルの上値が抑制されると、グロース株優位や金価格の強さ(安全資産需要)に整合的。日本は日銀の政策転換速度が焦点で、「10月・12月・来年」のタイミング配分が再評価のカギ。
4. 企業決算・企業動向の整理
- CoreWeave—Meta:最大142億ドルの長期インフラ供給契約。AI向けデータセンター需要の粘り強さを確認。半導体・インフラ関連のテーマ継続要因。
- ファイザー:一部薬価を最大85%(平均50%)引き下げ。政権の要請に応じ、国民向け直販サイトにも参加。医薬品関税の猶予延長もあってヘルスケア株に買いが波及。
- ナイキ(6–8月期):6四半期ぶりの増収。関税や在庫処分の値下げで純利益は落ち込むも、市場予想は上回る。卸売の回復が進捗。再建策の効果が表れ始めたとの評価。
- MS&AD(社名変更):2027年4月に「三井住友海上グループ」へ。グローバル展開を睨み、海外で通用する名称でのブランド統一と収益拡大(2030年度に利益7000億円水準目標)を狙う方針。
- JAL(飲酒再発防止):パイロットの飲酒リスクを6段階で管理、注意対象者は乗務不可とする見直しを提出。ガバナンス強化と安全運航の信頼回復を急ぐ。
- スノーピーク(新社長):前スターバックスCEO(日本)の水口氏が新社長に就任。上場廃止後の再成長に向け、外部人材登用でブランド再構築と収益性回復を図る。
- 住宅ローン(金利動向):みずほ銀行が変動型を0.25%引き上げ(最優遇0.775%)。固定型は大手5行が引き上げ。日銀の早期利上げ観測や国債需給の変化が背景。家計の金利感応度が高まる局面。
5. 下半期(10–3月)に向けた整理と示唆
米国:労働市場の“適温化”でインフレ圧力は沈静方向。シャットダウンは短期ノイズになり得るが、金利・ドルの頭打ちならリスク資産の地合いは維持されやすい。AI投資の勢いは続くが、織り込み進展で銘柄間の選別が重要。
日本:政策金利の「平常化」に向けたコミュニケーションが続く見込み。正常な物価上昇の定着を前提に、価格転嫁・利益率改善の構造変化が企業価値を押し上げる。短期的にはイベントドリブンで金利・為替が振れやすく、グローバル需給や米景気の変化に注意。
セクター・テーマ:
- ヘルスケアは政策ドライバー(薬価・直販プラットフォーム)を追い風に物色が広がる余地。
- AI/半導体は設備投資の強さが継続。ただし期待先行分は選別必須。データセンター・電力・冷却など周辺インフラにも波及。
- 金利上昇局面では金融・不動産・金利敏感消費に再評価と逆風が混在。家計の金利負担増は耐久財需要に遅行的影響の可能性。
まとめ
- 短期(〜10月):米政府閉鎖リスクで材料難、統計発表の遅延もありボラタイル。ただし「一時的」見方がベース。押し目形成は想定内。
- 中期(年末〜来年):米の利下げ期待とAI投資の持続、日本の物価・賃金・金利の正常化が重なり、構造的な強気シナリオは維持。局所的な過熱を冷ます「健康的な調整」を挟みつつ、上昇基調は生きている。
