名著の手法研究|一目均衡表の研究-第4章 値幅観測論

名著の手法研究|一目均衡表の研究‐第4章

一目均衡表の理論体系を構成する三大骨子のうち、「時間論」「波動論」に加えて、相場の価格変動を予測するために用いられるのが「値幅観測論(予測計算値)」です。この手法は極めて簡単でありながら「切れ味」が鋭い特徴を持ちますが、あくまでも時間論と波動論を前提とした上で活用されるべきものであり、予測計算値を絶対視することは戒められています。

第21講 値幅観測の基本となる四つの計算法

値幅観測には基本的に四つの観測法があります。相場の変動の本質は極めてシンプルであり、現実の高値や安値は、大半が以下のV、N、E計算値のいずれかに該当します。

  • V計算値:BからCへの押しの倍返し水準を求める計算で、式はV = B + (B – C) です。V波動で生じるポイントです。
  • N計算値:AからBへの上げを、ボトムCから同値幅上げてくるとする考え方で、式はN = C + (B – A) です。N波動で生じる基本となる計算値です。
  • E計算値(二層倍):AからBへの上げを高値Bに上乗せ(加算)する考え方です。式はE = B + (B – A) となります。A〜Bの初波動を「層」と見立て、その上に層を重ねる運動を繰り返すことから「二層倍」とも呼ばれます。
  • NT計算値:ボトムAからボトムCの切り上がり分をボトムCに加算するもので、式はNT = C + (C – A) です。V、N、E計算値では大きすぎるか小さすぎる場合に、極めて希に出現するポイントです。

第22講・第23講 実例に見るE計算値と応用計算値

具体的な相場では、下げが一巡した後、初波動のE計算値を取りに来る傾向がしばしば見られます。ソニー株の例(L22)では、一節(9日間)の戻りであるA〜BのE計算値4500円が観測されました。ここで重要なのは、その価格水準が「いつ」達成されるかという時間論との組み合わせです。A〜C(底)までの19日間の日柄と対等となる19日目(Cから数えて)前後に、E計算値を実現しやすいと予測されます。

また、相場を考察する上で、一目山人は「予想」ではなく「予測」を重視します。「予想(予め想う)」では思い込みが強くなり自由度が失われますが、「予測(予め測っておく)」は足元の証拠に基づき、相場が予測の範囲を超えた場合は論理を修正することが明確になるためです。

さらに、基本の三つの算出方法で観測された複数の「解」が、相場状況に対して最適ではない場合(帯に短し襷に長し)に採用される応用計算値として「仲値計算値」があります(L23)。ソニー株の例では、二つのN計算値(4220円と3900円)の仲値4060円が、実際の安値4050円とほぼ一致しました。

また、以前の波動で生じた上げ幅を再現する「習性値幅」も応用計算値の一つです。Cから③への上げ幅をEから再現した習性値幅4430円が、Fの戻り高値4420円で実現しました。Fは時間関係からも戻りの山になりやすいと判断されます。

第24講・第25講 時間関係と計算値の重複

下降相場において下値を観測する際(日立株の例、L24)、E計算値、N計算値、さらにはE計算値の三層倍(2E計算値)など複数の計算値を準備します。大切なのは、これらのうち「どれを」「いつ」実現するかです。

  • 時間論の活用:過去の波動(A〜Cの70日など)に対する対等数値や、変擬点を用いた隔擬(31日)といった時間関係を総合し、相場が転換しやすい変化日(3月13日や3月19日)を絞り込みます。
  • 価格の決定:この変化日の前後に、798円、763円、724円といった計算値のどれかが実現した時が相場の転換点となりやすいです。最終的に、価格は時間によって決定されるという原則が強調されます。

中勢観測においては、長い期間(87日間や177日間)の対等数値を用いて、2V計算値や2E計算値といったより大きな値幅を予測します(L25)。また、中勢波動の過去の変動が、現在進行中の相場に影響を及ぼす現象を「限定値幅」と呼びます。これは能動計算値(現在の波動で計算される値)のほかに受動計算値として作用します。

第26講・第27講 S構成点と背反値

複数の計算値が観測される際に、そのポイントが重複する水準(ポイントの重複)は、極めて重要な価格帯となります(日立株の例で875円〜885円)

また、上げ相場での押し目底の判断基準として「S構成点(S点)」が挙げられます。波動の頂点をいったん上回った後の押し目が、前回の頂点(天丼)よりも高いか、あるいはわずかに下回る程度であれば、その後、前回の天丼を抜く動きとなりやすいという、理想的な押し目底の位置を指します。

応用計算値の重要な考え方の一つに「背反値」があります(L27)。これは、正逆三尊のような波動パターンで典型的に見られ、相場の下げ幅(マイナス符号)と上げ幅(プラス符号)の違いがあっても、その絶対値は変わらないと考える手法です。日経平均の例では、過去の下げ幅(4995円)を基に算出した二つの背反値(イとロ)の仲値27,147円が、実際の戻り高値27,146円とほぼ完全に一致し、相場の天井を確定させました。

値幅観測論は、その単純な計算式からは想像できないほど鋭利ですが、あくまで時間関係や波動構成といった三大骨子の総合的な吟味があってこそ、相場転換の「急所」を見極めるための有効なツールとなるのです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次