名著の手法研究|一目均衡表の研究‐第3章 波動論

名著の手法研究|一目均衡表の研究‐第3章-波動論.

第3章 波動論 ― 相場の動きを捉える骨子

一目均衡表は、「時間論」「値幅観測論」「波動論」という三大骨子から成り立っています。本章では、その三本柱の一つである「波動論」について、第15講から第20講までの内容を詳細に解説していきます。

一目均衡表の波動論は、エリオットの波動原理などに比べて極めて簡単明瞭な考え方に基づいているのが特徴です。相場は一度動き出せば「上げるか下げるか」の二筋道しかなく、その本質はシンプルであるという思想が根底にあります。この波動論を理解することは、相場の現在性、すなわち相場が持つ力を把握し、今後の方向性を読み解く上で不可欠な要素となります。

本章では、基本となる5つの波動パターンから、日足・週足での実践的な捉え方、そして波動の強弱を判断するための応用的な手法まで、具体的なチャート例を交えながら多角的に掘り下げていきます。

目次

第15講 波動論①:基本となる5つの波動パターン

一目均衡表の波動理論は、相場のあらゆる動きを5つの基本的なパターンに分類して説明します。これらの波動の形状はアルファベットになぞらえて名付けられています。

基本波動と中間波動

5つの波動は、その性質から「基本波動」と「中間波動」の二つに大別されます。

基本波動:

    ◦ I波動: 一本の上昇または下降の動き。

    ◦ V波動: I波動が二つ組み合わさった、上昇から下降、または下降から上昇への転換の動き。

    ◦ N波動: I波動が三つ組み合わさった動き。相場の上げ下げは、最終的にこのN波動に集約されると考えられており、最も基本的な波動構成とされます。

中間波動:

    ◦ Y波動(拡大波動): 高値が切り上がり、安値が切り下がっていく、振幅が拡大する波動。

    ◦ P波動(縮小波動): 高値が切り下がり、安値が切り上がっていく、振幅が収縮していく波動。

Y波動とP波動は、次の波動に移る前の中間的な動きであり、10~15年といった大勢の波動としてはほとんど生じないとされています。

チャートで見る基本波動の実例

日経平均株価のチャート(1991年8月~1992年4月)を例に、これらの基本波動がどのように現れるかを見ていきましょう。

• I波動: チャートにおけるAからBへの上昇や、CからDへの下降など、単一方向の動きがこれに該当します。

• V波動: AからBへ上昇し、BからCへ下降する動き(A-B-C)、またはBからCへ下降し、CからDへ上昇する動き(B-C-D)などがV波動です。

• N波動:

    ◦ 下げN波動: AからBへ上昇し、BからCへ下降、さらにCからDへ上昇する動き(A-B-C-D)や、C-D-E-Fの動きは、下げN波動の典型例です。下降相場は、この下げN波動が繰り返し生じることによって形成されます。図-1が示すように、3波動目を共有しながら下げN波動が連続することで、大きな下降トレンドが作られます。

    ◦ 上げN波動: BからCへの戻り(3波動構成)や、J-K-L-Mの動きが上げN波動の例として挙げられます。

このように、相場の動きはI波動、V波動、N波動というシンプルな基本波動の組み合わせで捉えることができます。特に、全ての動きの基本となるN波動を認識することが、相場の流れを理解する第一歩となります。

第16講 波動論②:中間波動(拡大波動・縮小波動)の実例

本講では、基本波動とは性質の異なる中間波動である「Y波動(拡大波動)」と「P波動(縮小波動)」について、実際のチャートを用いて詳しく解説します。

Y波動(拡大波動)とその構成点

Y波動は、高値が切り上がり、同時に安値が切り下がっていくことで、価格の振幅が次第に拡大していく動きを指します。

【実例:1987年ブラックマンデー前の日経平均】 1987年の日経平均株価の動きは、典型的なY波動の例を示しています。 チャートを見ると、A地点を基点として、底値はC、アと切り下がる一方、天井はB、Dと切り上がっており、価格が拡大する運動をしています。この波動の天井や底を示す点を、一目均衡表では**「限定線」**と呼びます。

この87年の相場では、注目すべき価格変動が見られます。

• 底値の拡大幅(A→C):A(23419円) - C(22702円) = 717円 (※ソースのチャート図のCの値は明記されていないが、計算から逆算すると22702円となる)

• 天井の拡大幅(B→D):D(26646円) - B(25929円) = 717円

このように、**底値の拡大幅と天井の拡大幅が同値幅(717円)になっています。これは B + (A – C) = 26646円 という計算式でD点の価格が導き出されることを意味し、この計算値を「拡大波動の構成点」**と呼びます。

D点でこの構成点を達成した後、相場は3日間下落し、4日目にブラックマンデーを迎えています。この事実は、ブラックマンデーが市場の予測不能な「急変」ではなく、拡大波動が値幅的な目標を達成した後に必然的に起こった動きであったことを示唆しています。均衡表の波動論を用いれば、相場の大きな転換点を事前に察知することが可能となるのです。

P波動(縮小波動)とその特徴

P波動は、Y波動とは対照的に、高値が切り下がり、安値が切り上がっていくことで、価格の振幅が次第に収縮していく動きです。

【実例:1990年~1991年の日経平均】 90年6月以降の日経平均株価のチャートを見ると、E地点以降、底値はG、Iと切り上がり、天井はF、Hと切り下がっています。EからFへの値幅に対し、その後のGからHへの値幅、IからJへの値幅(※チャートにはJは表示されていないが文脈から推測)が次々と縮小しており、典型的なP波動を形成しています。

P波動においては、一見強そうに見える上昇(例:KからLへの上昇)であっても、直前の高値(この場合はH)を抜けずに終わる場合、予期せぬ反落に見舞われる可能性が高いため、注意が必要です。P波動はエネルギーを溜め込んでいる状態であり、収縮した振幅が最終的に上下どちらかに放れることで、次の大きなトレンドが始まります。

第17講 波動論③:波動の認定と「直線化」の思考

前講までは波動のパターンを紹介してきましたが、本講では、実際の相場の動きをどの波動として「認定」するのか、その判断方法について掘り下げていきます。

波動認定のプロセス

最も単純な波動はI波動であり、V波動は二つのI波動から、N波動は三つのI波動から形成されます。 チャート例(1991年10月~1992年2月の日経平均)を見てみましょう。

1. AからBへの上昇は、短期の上げI波動です。

2. BからCへの下降も、短期の下げI波動です。

3. したがって、A-B-Cの動きは、上げ下げの**V波動(2波動構成)**となります。

4. さらに、A-B-C-Dの動きは、上げ・下げ・上げの3つのI波動で構成されるため、上げ3波動と見なせます。

しかし、ここでの解釈はあくまで小勢波動のものです。

波動の解釈は変化する

重要なのは、その後の相場の動きによって、過去の波動の認定が変わるという点です。 上記の例では、D点の後に相場がE点まで一本調子で下落し、A点の水準を下回っています。この事実をもって、波動の認定をやり直す必要が出てきます。

この場合、当初「上げ3波動」と見ていたAからDまでの動きは、途中の細かな変動をそぎ落とし、一つの上昇波動(I波動)であったと解釈し直します。その結果、AからEまでの全体の動きは、上昇(A→D)と下降(D→E)から成る基本V波動に変わったと認定されるのです。

「直線化」して考える重要性

このように、波動を認識する上では、価格の変動を**「直線化」**して考えることが不可欠です。AからDまでのジグザグした動きも、結果として見れば「21,123円から23,901円まで戻った」という一つの線として捉えることができます。この「直線化」の思考法を用いることで、相場の大きな流れ、すなわち基本波動を見誤ることなく捉えることが可能になります。

下降N波動へのつながり

波動認定の変更後、E点からの戻りがF点で終わっています。ここで、直線化された波動 A-D-E-F を見ると、3波動から成るN波動が形成されています。しかし、戻り高値であるF点は、前の高値であるD点の水準には遠く及びません

この時点で予測できることは、「Eからの戻りがDを抜けなかった以上、この動きはいずれEを下回る本格的な下げにつながるだろう」ということです。このような、戻りが弱いN波動の構成は、下降N波動へと発展しやすい典型的なパターンなのです。

第18講 波動論④:下降N波動の連続と9波動構成

前講で解説した「下降N波動につながりやすいパターン」が、その後どのように展開していくのかを、引き続き日経平均のチャートを追いながら検証します。また、相場の転換点を見極める上で重要な「小勢波動の構成」についても解説します。

下降N波動の連続

前講で見たチャートの続きでは、G点が直近の安値であるE点を下回っています。これにより、D-E-F-Gの3波動は下降3波動であることが確定しました。このように、戻るたびにその高値が切り下がり続ける相場は、下降N波動が連続しやすい典型的なパターンです。

• 高値の切り下がり: D→F→Hと、戻り高値は一貫して切り下がっています。

• 安値の切り下がり: A→E→Gと、短期的な底も切り下がり続けています。

この高値と安値の双方が切り下がり続ける状況は、下降トレンドが継続していることを明確に示しており、依然として下降N波動が続く可能性が高いと判断できます。

小勢波動の構成:5、7、9波動

エリオット波動理論とは異なり、一目均衡表の波動論では波動の数を固定的に捉えませんが、小勢の波動においては一定の周期性が見られます。通常、小勢波動は5波動、7波動、あるいは9波動で構成されることが多いとされています。

チャートを見ると、91年10月31日の戻り高値(25,222円)からI点までは7波動で構成されています。このことから、次の9波動目で底打ちとなる可能性が極めて高いと予測することができます。

実際に相場は、Iからの戻り(J)がピークとなり再び下降に転じ、下げ足を速めて4月9日のK点(16,598円)まで急落しました。このK点で、先の高値から小勢9波動が完成し、中勢の下降波動が終了した公算が大きいと判断できるわけです。

この91年10月末から5ヶ月間にわたる動きは、波動を共有し合う4つの小勢下降N波動が連続した「9波動の動き」として整理できます。これにより、4月9日のK点で中勢の底が形成された可能性が高いと解釈できるのです。

ピーク・ボトムの抽出の重要性

このように、相場の流れを判断するためには、途中の微細な上げ下げを省略し、小勢のピークとボトムを抽出することが極めて重要です。これにより、現在の相場が「上げ潮1」なのか「下げ潮2」なのかを客観的に判断することが可能となります。

第19講 波動論⑤:週足・月足における波動の捉え方と大勢観

これまでは日足ベースでの波動の捉え方を考察してきましたが、本講では、より長期的な視点を持つために週足や月足における波動の捉え方を解説します。

時間軸と相場観

日足、週足、月足と時間軸が変わっても、波動を分析する基本的な考え方に変わりはありません。ただし、扱う対象(時間軸)が変わることで、得られる相場観のスケールが変わってきます。

• 日足: 短期的な波動の分析が中心。

• 週足中勢観(数ヶ月~1年程度)および大勢観(数年単位)の把握を可能にします。

• 月足大勢観および超大勢観(10年以上の長期)の把握が可能となります。

週足で見る日経平均の中勢観・大勢観

ここでは、日経平均の週足チャート(1988年6月~1991年6月)を用いて、中勢観と大勢観を検証してみましょう。

【上げN波動の連続】 チャートを見ると、A地点からJ地点(1989年12月29日の史上最高値)までは、上げN波動が連続しています。

• A-B-C-D:上げN波動

• C-D-E-F:上げN波動

• E-F-G-H:上げN波動

• G-H-I-J:上げN波動

このように、底値も高値も順調に切り上がる上げN波動が連続している間は、上昇トレンドが継続していると判断できます。

【波動の転換点】 史上最高値であるJ点をつけた後、相場は反落し、90年2月後半には、それまで切り上がり続けていた波動のボトムであるI点を下回りました。この瞬間こそ、波動が明確に転換したシグナルです。

さらに重要なのは、J点からK点までの下げが一本のI波動で、上昇トレンドの起点であったA点のボトムさえも一気に割り込んでいる点です。

波動の原理がもたらす大局観

この時点で考えるべきことは、「K点から一旦戻るとしても、その戻りには限界がある」という点です。87年11月のブラックマンデー後の安値から続いていた上げN波動の連続が、K点で明確な中勢波動の下げ転換を示したからです。これは、K点からの戻りがJ点の史上最高値を抜く可能性は極めて小さいことを意味します。

その後の動きを検証すると、K点からの戻りL(33,192円)が戻りのピークとなり、L’で短期的な二番天井をつけた後、90年2度目の暴落に至っています。日足で見ると判断に迷うようなLとL’の動きも、週足の波動論で捉えれば、**「Jを抜けずに終われば、いずれ下げN波動につながる」**という大局観を持つことができます。

事実、相場は8月にK点を下回り、J-K-L-Mという大きな下げN波動を形成し、ボトムMまで下落しました。

このように、波動の原理を週足で理解していれば、短期的な値動きに惑わされることなく、「Kからの戻りには限界があり、Jを抜かない限り、時間はかかってもいずれKを下回る」という中・大勢観を持つことが可能となるのです。

第20講 波動論⑥:ボーダーラインによる波動構成の分析

これまではN波動などを中心とした基本的な判断手法を述べてきましたが、本講では、別の観点から波動を分析する手法として**「ボーダーライン」**を紹介します。この手法は、波動が上昇波なのか下降波なのかを判断しながら、その構成を吟味していくことに力点を置きます。

ボーダーラインの定義と記入法

ボーダーラインとは、波動の天井と底に特定のルールで番号を振っていく分析手法です。これにより、相場のエネルギーの方向性を視覚的に捉えることができます。

【記入ルール】

1. 分析の起点となる安値(または高値)に最初の番号(①)を記す。

2. 安値が切り下がった場合にのみ、次の安値に奇数番号(③, ⑤, ⑦…)を付けていく。

3. 高値が切り下がった場合にのみ、次の高値に偶数番号(②, ④, ⑥, ⑧…)を付けていく。 (※上昇相場の場合はルールが逆になり、高値が切り上がった場合に偶数番号、安値が切り上がった場合に奇数番号を付けます)

チャートで見るボーダーライン分析の実例

日経平均のチャート(1991年7月以降)を例に見てみましょう。

1. A点(25,222円)からの最初の安値(21,502円)にボーダーライン①を記します。

2. ①からの戻り高値にボーダーライン②を記します。

3. その後、相場は安値を切り下げて③、⑤、⑦、⑨と続き、高値も切り下げて④、⑥、⑧と続いています。

【相場エネルギーの判断】 例えば、④の時点で考えてみましょう。この時、安値は①→③と切り下がり、高値も②→④と切り下がっています。この進行状態は、波が明らかに下方のエネルギーを持っていることを示しています。

ここから導き出される重要な示唆は、「③からの戻りが②を上回ることなく下落に転ずれば、その後の動きは結果として③を下回らざるを得ない」ということです。つまり、④の地点から次に来る波動は、高い確率で下方の波であることが予測できるのです。

事実、④からの波は③の20,858円を下回り、⑤の20,618円まで下落しました。その後も⑥が④を下回り、下降波動が継続する可能性が高いことを示唆し、最終的に⑨まで下落が続きました。

波動の認識力がもたらす未来予測

波動論にかなりの紙面を割いてきましたが、この波動の認識力があるか否かで、相場の方向性を読み取る力は全く違ってきます。

人の認識力によって、一波動先だけが読める人もいれば、2週間先、1ヶ月先をイメージできる人もいます。そして、その認識力を高めることで、1年先、5年先、さらには30~40年先までの相場の大きな流れをイメージすることも可能になるのです。

一目均衡表の波動論は、その基本を習得するだけでも強力なツールとなりますが、さらに波の原理、振動の原理、流れの原理などを深く知ることで、その真価を最大限に発揮することができます。

第3章 波動論のまとめ

以上、第15講から第20講にわたり、一目均衡表の三大骨子の一つである「波動論」を詳述しました。その要点を以下にまとめます。

1. シンプルさと実践性: 一目均衡表の波動論は、相場の動きをI、V、N、Y、Pの5つのシンプルなパターンで捉えます。特に、全ての動きが集約されるN波動を基本とし、複雑な理論よりも実践的な判断を重視します。

2. 波動の認定と直線化: 相場の動きは、後の展開によって過去の波動の解釈が変わることがあります。途中の細かな動きをそぎ落とし**「直線化」**して考えることで、相場の本質的な流れである基本波動を見極めることができます。

3. 多角的な視点: 日足だけでなく、週足・月足を用いることで、短期的な値動きに惑わされない中・大勢観を掴むことが可能です。また、ボーダーライン分析のような独自の手法は、相場のエネルギーの方向性を視覚的に判断するのに役立ちます。

4. 予測のためのツール: 拡大波動の構成点や、小勢波動の9波動構成など、波動論は未来の価格や転換点を予測するための具体的なヒントを提供します。これは「予想」ではなく、根拠に基づいた「予測」を行うための論理的なツールです。

5. 認識力の重要性: 最終的に相場を読み解くのは、チャートそのものではなく、それを分析する「読み手」の認識力です。波動論を深く学び、その認識力を高めることで、より長期的で正確な相場観を養うことが可能となります。

この波動論は、単独でも非常に強力な分析手法ですが、その真価は「時間論」「値幅観測論」と総合化して初めて発揮されます。相場の方向性(波動)を把握し、その転換時期(時間)と目標価格(値幅)を測ることで、一目均衡表は比類なき相場分析理論となるのです。

  1. 上げ潮(あげしお)
    意味:海で潮が満ちていくように、相場全体が上向きの勢いを持っている状態
    背景:景気の拡大局面、金融緩和、好材料のニュースなどで市場心理が強気に傾きやすい。
    イメージ:個別銘柄に特別な材料がなくても、全体の潮流に乗るだけで株価や為替が上昇しやすい。
    👉「上げ潮に乗る」という表現は、相場全体の追い風を利用して投資成果を得るという意味で使われます。 ↩︎
  2. 下げ潮(さげしお)
    意味:潮が引くように、相場全体が下落基調にある状態
    背景:景気後退懸念、金融引き締め、悪材料の連続などで投資家心理が弱気になりやすい。
    イメージ:良い材料がある銘柄でも、市場全体の売り圧力に押されて値下がりしやすい。
    👉「下げ潮に逆らうな」という表現は、弱気相場では無理に買い向かわず流れに合わせるのが賢明だ、という相場格言です。 ↩︎
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