名著の手法研究|一目均衡表の研究‐第2章

名著の手法研究|一目均衡表の研究‐第2章

はじめに:時間論の重要性

一目均衡表は、「時間論」「波動論」「値幅観測論」という三つの理論を骨子として構成される総合的な相場分析手法です。その中でも、故・一目山人翁が最も重要視し、その理論体系の根幹をなすのが本章で解説される**「時間論」**です。一目均衡表は、「相場の主体は時間にあり、価格は結果として従ってくるものである」という大命題の上に成り立っています。これは、多くの相場分析手法が価格の変動(値幅)やパターン(波動)に主眼を置く中で、時間を分析の主軸に据えた画期的な考え方です。

本章では、この時間論の核心である「基本数値」と「対等数値」という二つの概念が、日経平均株価の実際のチャートを用いて詳細に検証されます。これにより、相場が特定の時間的周期やリズムによって支配されている可能性が示され、未来の相場変化日を予測するための具体的な方法論が提示されます。

目次

第9講 時間論とその検証①:基本数値の発見と定義

本講では、一目均衡表の時間論の根幹をなす「基本数値」の概念が導入されます。

時間論の大命題

冒頭で、一目均衡表の fundamental な考え方である「相場の主体は時間にあり、価格は結果として従ってくるものだ」という大命題が改めて強調されます。著者は長年の研究を通じて、この命題の正しさを常に痛感してきたと述べています。

基本数値の探求

故・一目山人翁は、この時間論の核となる「基本数値」を確定させるために、洋の東西を問わず数字に関するあらゆる文献を渉猟し、実に4年半有余もの歳月を研究に費やしたとされています。その結果、自然界から社会現象に至るまで、森羅万象の変化や転生が、**「9」「17」「26」**という三つの数字によって大きく支配されていることを発見しました。これらの数字は、単なる経験則ではなく、自然の摂理を体現したものであると位置づけられています。

複合基本数値

この発見に基づき、均衡表では9、17、26の三つの数字を単純基本数値と定めています。それぞれに以下の呼称が与えられています。

• 9:一節(いっせつ)

• 17:二節(にせつ)

• 26:一期(いっき)、または三節(さんせつ)

複合基本数値

さらに、これらの単純基本数値を組み合わせることで、複合基本数値が定められています。資料では、単純と複合を合わせて合計10通りの基本数値が一覧表として示されています。

基本数値記号呼称種別
9×一節単純
17二節単純
26一期(三節)単純
33一期一節複合
42一期二節複合
65複合
76一巡(三期)複合
129複合
172複合
200~257複合

チャートによる検証

本講では、これらの基本数値が実際の相場でどのように現れるかを、日経平均のチャートを用いて示しています。 例えば、あるチャートの①から②への下げは一節(9日間)一期(26日間)18日間、すなわち二節(17日)に1日加えた日数で完了しています。 このように、相場は偶然に動いているのではなく、これらの基本数値に代表される特有の時間的波長を持っていることが示唆されています。

第2節 基本数値による相場の検証

ここでは、実際の相場が基本数値とどのように関連しているかを、日経平均株価のチャートを用いて具体的に検証します。

【検証1:1991年5月~1992年2月の日経平均】 1991年5月15日以降のチャートを見ると、高値①から安値②までの下落日数はザラバ安値までで9日であり、「一節」に該当します。また、高値①から終値ベースの底③までは26日であり、「一期」を形成して小勢の底となっています。その後の戻り局面である③から④までの日数は終値ベースで18日で、「二節」(17日)に1日加えた日数となっています。このように、相場の短期的な波動が基本数値に沿って形成される例が確認できます。

【検証2:1990年9月~1991年7月の日経平均】 より長い期間で見ても、基本数値との関連性が明確に見て取れます。チャート上の各変化点(A~I)を終値ベースで検証すると、以下のようになります。

• AからBへの動きは「一節」(9日)です。

• BからCは10日(一節+1日)、AからCは18日(二節+1日)となっています。

• CからDの底までは27日で、「一期」を1日超過したところでボトムをつけています。

• AからDまでは44日で、「一期二節」(42日)を2日超過した日数です。

• GからHまでは52日で、これはほぼ「二期」(26×2=52)に相当します。

• そして、GからIまでの期間は77日で、これは「三期・一巡」(76日)にまさに該当します。相場が同一方向に「一巡」の動きをたどると、極めて転換しやすい重要な局面に入るとされています。

検証3:1991年7月以降の日経平均】

• A(7月9日 21,731円)からB(7月31日 24,156円)への戻りは18日(二節+1日)で頭打ちとなっています。

• BからCへの下げは14日で、「半期」(13日、複合数値の一つ)に1日加えた日数です。

• CからDまでは32日で、基本数値33のほぼ通りです。

• CからEまでの戻りは51日で、「二期」に相当し、まさに変化が生じやすい場面での頭打ちとなりました。

• BからEまでは64日で、基本数値65日の1日前です。

• AからEまでは81日で、「一巡」(76日)を5日超過した場面でした。 このように、複数の基本数値が重なるポイントEは、相場の流れが変わりやすい重要な日であったことがわかります。特にEからFへの下げはほぼ一本調子で29日(一期を3日超過)続いており、これは将来にわたり深刻な下げ相場を生じかねない重要なパターンであると指摘されています。

【検証4:1992年大発会以降の日経平均】

• A(大発会)からB(1月21日 20,858円)への急落は11日(一節+2日)。

• BからCへの戻りは10日(一節+1日)。

• CからDへの下げは12日(半期-1日)。 この期間の小勢波動は、ほとんどが「一節」から「半期」の範囲で方向転換していることがわかります。このことから、Dからの戻りもまた同程度の日数で終わる可能性が高いと単純化して予測することができるわけです。

なお、これらの基本数値は、市場が未成熟で少数の投資家の力で相場が乱高下した昭和30年代以前よりも、市場が成熟した昭和40年代以降の相場でより明確に機能していると著者は分析しています。

第3節 対等数値:波動が生み出す時間のリズム

基本数値に加えて、一目均衡表の時間論にはもう一つの重要な考え方として「対等数値」があります。これは、基本数値以外の時間関係、すなわち、過去に生じたある波動の所要日数が、別の起点から繰り返されることで相場の転換点を捉えようとするものです。

この対等数値の考え方の核心には「変擬(てんぎ)」という概念があります。変擬とは、以前に生じた時間の区切りを、その区切りとは別の天井や底を出発点として擬する(あてはめる)ことです。この擬するべきポイントを「変擬点」と呼びます。変擬には、主に二つの種類があります。

1. 隔擬(かくぎ):ある時間の区切りを、期間を隔てた別の変擬点からあてはめること。

2. 重擬(じゅうぎ):ある期間を重ね合わせて擬すること。起点と終点の異なる二つの期間の日数が同じになり、途中の期間が重複する形になります。

対等数値は、波動の構成と密接に関連しており、単純な方程式のように変化日を特定できるものではありません。しかし、波動の数と時間が合致する周期性が存在することも事実であり、これを活用することで予測の精度を高めることができます。一目山人氏は、波動の組み合わせによる対等時間のパターンを6通り示しましたが、著者は自身の研究からさらに4パターンを加え、計10通りのパターンを活用していると述べています。重要なのは、波動の数と時間の長さが「対等」になるという点です。

【対等数値による相場の検証:1991年7月~1992年4月の日経平均】 この期間の相場は、対等数値の考え方を導入することで、より深く理解することができます。

• A(91年7月8日の中間底)からBまでの上昇日数は62日でした。これに対して、BからE(92年大発会の戻り高値)までの日数は61日とほぼ対等であり、62日目から相場の方向が変化しました。

• CからEまでの期間は42日(基本数値の一期二節)です。この42日間という時間を、Fを変擬点としてあてはめてみると(隔擬)、FからGまでの戻り高値までの期間は43日となり、ほとんど対等数値で転換したことがわかります。

• AからDまでの期間は79日でした。これに対して、DからH(4月9日のボトム)までも同じく79日となっています。この対等数値の出現により、Eからの下降の勢いが一旦減退する重要な場面であることが示唆されます。

• さらに、4月13日の614円安(I)という波乱がなぜ起きたかを検証すると、A(7月8日)からDまでの期間が109日であったのに対し、CからIまでもまた109日となっています。これは、C~Dの期間が重複する「重擬」のパターンであり、この強力な時間関係がIまでの波乱に影響を及ぼしたと考えられます。

このように、基本数値だけでは判断に迷う場面でも、対等数値という視点を加えることで、4月8日、9日が最重要変化日であると予測することが可能になるのです。

第4節 時間論のまとめ:相場への姿勢

これまで詳述してきたように、時間論は一目均衡表の骨子であり、相場論そのものと言えるほど重要です。著者は、今後も自身が会得した時間論について紹介する機会を持ちたいと述べるほど、その探求は奥深いものです。

ここで改めて、時間論を学ぶ上で重要な相場への姿勢について確認します。

1. 簡単明瞭をもって最良とすべし 相場の本質は、買い方と売り方の均衡が破れた方へ動くという、極めてシンプルなものです。この均衡関係を、基準線や転換線、先行スパン、遅行スパンといったツールを用いて探っていくのが一目均衡表です。相場は一度動き出せば大きく変動するため、それを把握する手法は即座に判断できる簡単明瞭なものでなければなりません。この原則を常に心に留めておくことが重要です。

2. 株価の現在性を知れ 一目均衡表が教えるもう一つの重要な心構えは、「現在の株価(価格)それ自体が持っている力(現在性)を知る」ことです。これは、極めて単純化すれば、「売り方と買い方のどちらが勝ち、どちらが負けているかを知れば、ほぼ十分である」とさえ言えるほど本質的なことです。

時間論を深く理解することは、この「現在性」を把握するための最も強力な武器となります。価格の動きに惑わされることなく、時間の経過がもたらす相場の節目を見極めることこそ、一目均衡表が目指す相場観の神髄と言えるでしょう。

以上が、一目均衡表の第2章「時間論」の要約です。時間という不可逆的な要素を相場分析の中心に据えることで、価格の変動をより深く、そして多角的に捉えることが可能になるという、一目均衡表独自の哲学が示されています。

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